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番外編(1) 01.下らない人生

(*この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません)





ーーー下らない人生だと思った。



良い子にしていても愛されない。

どんな高額なプレゼントを貰ったって満たされない。

誰かを助けたって報われない。


心から愛そうと決めたところで、その男は別の女に夢中で見向きもしない。


そして最後は牢の中……たった一人で死んでいく。



(ああ、なんて滑稽なの……)



せめて、あのペンダントを手に持ったまま死にたかった。

あの赤い石を眺めていると心が落ちついて素直になれた。

侯爵家に来てから、いつも祈っていた。


(………幸せになりたい)


舌打ちをしたとしても、コルセットの締め付けは緩まらない。


(最後まで誰かに縋ったりしない。惨めったらしく助けを求めるなんて……笑えるわ)



そのまま静かに目を閉じた。



その時に見た夢は見たことのない知らない世界で、女性がボロボロになって、色んな職場を転々としながら懸命に働いている姿……。


(何……変な夢。不器用なのね)


両親が蒸発して取り残された少女。

なんて不憫なのだろうと思うのと同時に、恵まれない状況下で懸命に頑張り続ける女性に共感を覚えた。


(………誰も、助けてくれない)


疲れ果てて玄関に倒れ込む女性を見た後に、意識が暗闇に落ちていった。










(……寒い、地下室ってこんなに肌寒いのね)


目を開くと何故か牢の中に居るはずなのに、明かりが見える。


(誰かいるのかしら…?)


ぼやけた視界で起き上がる。

しかし、すぐに違和感に気付いて腹部を押さえた。



「ーーーッ!?」



(コルセットがない……っ!?)


見たことが無いのに見たことがある部屋。

知るはずがないのに、全てを理解している不思議な感覚……。


足は冷えきっていた。

部屋の中をゆっくりと見渡した。


(裸足……どこかの物置かと思ったけど、この子の部屋なのね。ここは賃貸アパート……アルバイトに行かなきゃいけない?)


頭の中にポンポンと浮かぶ名前。


(わたくしは……)



「……凛々?天野 凛々」



座り込んで目を閉じてから暫く考え込んでいた。



「ふーん……」



両親の借金を返す為に高校を卒業してから、朝から夜まで働き通し。

恋人や婚約者は居ない。


(……減らない借金、こんな方法でちまちま返していたら減る訳ないじゃない)


凛々の元に借金の取り立ての名目で、会いにくる男が居る。


(いつも"田中さん"って呼んでいた男が居るのね……この男の女になれば借金をチャラにしてくれそうだけど。鈍いのかしら、凛々は)


凛々の記憶には、いつも"田中さん"が居る。

紺色の布地に虎と竜が描かれているスカジャンがお気に入り。

金色の髪に耳に無数のピアス穴と、鎖のようなゴツゴツとしたアクセサリー。


鋭い目付きと迫力は、あの騎士によく似ているような気がした。


(ユリシーズ・マクロネ……)


正義感が強く、本質を見極めようといつも此方を注視していた。

同じ孤児院から引き取られた養子な筈なのに、ユリシーズを見ていると自分が汚れた存在に思えた。


ジゼル・マクロネもそうだった。

キラキラと輝くような笑顔を向けて、噂に関係なく普通に話しかけていた。


(あの人達だったら、わたくしに力を貸してくれたのかしら……なんてね。甘い幻想だわ)


溜息を吐いた。

側に置いてあるのは短期高収入の求人冊子。

手元にあるスマホでネットを開けば、高収入の文字が並ぶ。


同じ時間を使うのなら、多く金を貰えた方がいいだろう。

早朝と深夜は多く金が貰える。

だから凛々は不規則な生活を強いられている。


徐に立ち上がり、洗面台に向かった。


鏡に映るのは、細く貧相な体。

ガサガサの手と唇、手入れが行き届いていない髪。

栄養状態が良くないのか肌の状態も悪く、カサカサな皮膚が目についた。


(まぁまぁね……磨けば光るかしら)



とある電話番号に電話を掛ける。



「あ、もしもし……住み込みで働きたいの、いいかしら?」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 貴方の作品は読んでて気分が良い! しかも完結してくれているのでちゃんと読む気になります。 よくある悪役令嬢系の中でも着眼点が違い飽きません。 [一言] これからも読みたいですので応援させて…
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