84.明るい未来へ(4)
長年、敵対する国の王族の王太子と王女が愛し合っている。
もし二人を引き裂こうものならば、バルドル王国に残り結婚する事を選ぶ事は明白だろう。
女王と国王は口籠もるしかなかった。
(ミッドデー王国の王女でなければ……)
(……ミッドナイト王国の王太子でなければな)
そんな中、ミッドデー国王は眉を寄せながら問いかけた。
「アマリリス、やはりバルドル王国に居たいか?」
「お父様……」
「アマリリスが大好きな家族や愛する者と離れ難い気持ちは痛い程理解しているつもりだ。しかし、ワシはっ、ワシはもう片時もアマリリスと離れたくはない……!」
「……はい」
「だから……っ」
ミッドデー国王は真剣な表情で此方を見ている。
「ーーーワシもバルドル王国に移り住もうかと思うッ!!!!」
「え!?」
「……!?」
「馬鹿者がッ!!国はどうするのだ!」
「それを悩んでいた所だッ!!ハッハッハッー!」
「「「…………」」」
ミッドナイト女王は額を押さえて首を振った。
しかしミッドデー国王の気持ちは痛いくらいに伝わっていた。
再会したばかりだが、これ程までに愛してくれるミッドデー国王を放ってはおけなかった。
それにミッドデー王国の跡継ぎは"アマリリス"ただ一人だけ。
後妻を迎えることも無く、マヤとアマリリスを想い続けたミッドデー国王のことを思うと胸が痛む。
それにマヤに裏切られた事を知ったミッドデー国王は気丈に振る舞っていたとしても、一ヶ月前よりもやつれているように見えた。
それに二人共、幼い頃から『本当の両親に会ってみたい』と、心のどこかでは思っていた。
こうして生きているうちに顔を合わせる事が出来たのは幸運だろう。
(………どうすれば、皆が幸せに暮らす事が出来るの?)
敵対しているからこそ、どちらかに偏ってしまえば不平不満が出るだろう。
部屋の中には重たい空気が流れていた。
拮抗状態は暫く続いた。
二人が共に居るための壁は、大きく分厚いように感じていた。
だからと言って、ユリシーズと離れる事は考えられなかった。
頭の中には皆が幸せになる一つのアイディアが浮かんでいた。
誰も口にしないのは暗黙の了解として理解しているからだろう。
しかし、それを実行に移すには途方のない努力と苦難が付き纏うだろう。
それに、女王も国王も絶対に反対するに違いない。
(でも、このままだと……)
ギュッと唇を噛んだ後に、小さく手を上げる。
皆の視線が集まったのを確認して、静かに口を開いた。
「あの……」
「どうしたアマリリス?」
「わたくし……ずっと言いたかった事があるのですが」
「……言ってご覧」
ミッドデー国王の言葉に頷き、大きく息を吸った。
「ーーー国を一つに纏めるのはいかがでしょうかッ!?」
その言葉にミッドデー国王とミッドナイト女王は目を丸くしている。
何を今更……といった視線が四方八方から突き刺さる。
「そっ、そうすれば平等ですし、丸く収まるのではと思うのです……!生まれ育ったバルドル王国やジゼル様と離れるのは寂しいですが、お父様を一人にしてはおけませんッ!!」
「ア、アマリリスゥ……!!」
「勿論、とても難しい問題だという事は理解していますっ!!一筋縄ではいかないでしょう……ですがこのまま国同士が仲が悪くても良いことは一つもないですわ!だからですね……その、」
「「「……」」」
「な、仲良くしましょうッ!!!」
はぁはぁと肩で息をしながら必死に訴えかけた。
ユリシーズは顔を真っ赤にしながら座り込む姿を見てフッと息を漏らした。
その後「アマリリスらしいな」と言って、笑みを浮かべた。




