83.明るい未来へ(3)
責任感が強いユリシーズだからこそ迷っているのだろう。
心が少しでも軽くなるように、背中を押せたのならと思っていた。
「父上にも同じ事を言われた。"お前の意思に任せる。後悔しないように前に進め"と……」
二人共、とても難しい問題を抱えている。
どちらを選んでも必ず何かを失ってしまう。
騎士団としての責任ある立場や、大切な家族との絆を持つユリシーズは失うものが多い。
身近で見ていると、悩みや苦しみが伝わるような気がした。
「ユリシーズ様の幸せが、わたくしの幸せですから」
「……っ」
「皆、そう思っています……だから、そんなに悩まないで下さい。体を壊してしまいますよ?」
「…………そう、だな」
「生きていれば何とかなりますから!それにわたくしは、最後まで諦めたくはないのです」
ユリシーズは一瞬だけ目を見開いて力強く頷いた後、そっと腕を回した。
大きな背中に手を回して寄り添った。
敵対する国同士の王族……ユリシーズが国に帰るのならば離れなければならない。
(愛している。だからこそ、誰よりも幸せになって欲しい……)
そして一ヶ月後、マクロネ公爵邸で改めて話し合いの場が持たれる事となった。
一ヶ月振りに会えた事に感涙しているミッドデー国王を宥めている間、ミッドナイト女王はマクロネ公爵と話をしていた。
今までのユリシーズの様子や未来の事について意見を交わしたようだ。
そしてユリシーズ、ミッドデー国王、ミッドナイト女王と四人で話し合いが行われた。
「そなたの父とも話したが、わたしも同意見だ………バルドル王国の騎士として生きるのであれば止めはしない。勿論、ミッドナイト王国に戻るならば母として、ミッドナイト王国の女王として歓迎しよう」
ユリシーズは、ミッドナイト女王を真っ直ぐ見つめながら口を開いた。
「突然、王太子と言われても……正直どうしたらいいかは分かりません。俺は、今までバルドル王国の騎士として生きてきました。王太子として国に戻ったとしてもミッドナイト王国の国民達に受け入れられるかどうかは分からない……」
「ユリシーズ様……」
「………もし、ミッドナイト王国の国民が、王太子としての俺を必要として求めているのならば応えていきたい。そしてその努力も惜しまないつもりです………それが今の俺が言える精一杯の答えです」
ミッドナイト女王はユリシーズの気持ちを受け止めたのか静かに頷いた。
確かに騎士として務めてきたユリシーズが急に一国の王太子として振舞う事は出来ないだろう。
けれどそれは此方も同じだ。
貴族の令嬢としての知識はあれど、王女としての立ち振る舞いは全く分からない。
「……我が国の事を真剣に考えてくれたのだな。ありがとう、ユリシーズ。民はそなたの無事を心から喜んでいた」
ユリシーズの固く握っている掌を包み込むように握った。
星のような金色の瞳が左右に揺れている。
強く握り返される手…この温かさを離したくなかった。
「しかし大前提として、俺はアマリリスと共に居たい……一人の男として守っていきたい」
その言葉に驚き目を見開いた。
そしてユリシーズの言葉に応えるように口を開いた。
「っ、わたくしも同じ気持ちです!ユリシーズ様と共に居たい……離れたくありません!!でも、お父様も心配でっ…!」
「「…………」」
互いを思い遣り、寄り添う二人を見たミッドナイト女王とミッドデー国王は、思わず顔を見合わせた。