81.明るい未来へ(1)
そしてシャロンが牢に入れられた次の日の事だった。
何者かに首を折られて絶命していたシャロンが発見されたのだとオマリから聞いて驚いていた。
まるで口封じのようにシャロンが殺害された事で、何者かが関与しているのではないかとスペンサーが指摘した。
その後、ミッドデー王国、ミッドナイト王国、バルドル王国で大規模な調査が行われた。
ミッドデー王国とミッドナイト王国の亀裂を深める事で得をする人物、又は国がある。
アマリリスとユリシーズは殺されもせずに"バルドル王国"の孤児院に二人が預けられた事も気になる所だ。
そして二人共"偶々"バルドル王国の貴族に引き取られた。
ミッドナイト王国から生まれたばかりのユリシーズを攫い、ミッドデー王国からマヤとアマリリスの乗った馬車が襲撃されたこと。
そしてその十九年後に、王家主催のパーティーでのミッドナイト女王、ミッドデー国王のタイミングを見計らったかのような鉢合わせ。
あまりにも偶然が重なり過ぎているのではないかと……。
シャロンを影で操り、ミッドナイト女王をバルドル王国へと誘導した者と、アマリリスの存在を餌に国を閉じていたミッドデー国王を表舞台に引き摺り出した者がいる。
単純に考えれば、ミッドデー王国とミッドナイト王国が互いにぶつかり合う可能性が大きいかもしれないが、上手くいけばバルドル王国を巻き込む事も出来る。
そして、もしくはバルドル王国が二人を攫ったと考えさせる事は出来ないかと……。
スペンサーの言葉に背筋がゾッとした。
まるで国同士の争いを誘発するような動きだと思ったからだ。
あわよくばバルドル王国も巻き込まれてくれればいいと。
「互いに潰れ合ってくれればいい……そう思っている国が一つだけある」
「まさか……!」
「"ティムリム"だ」
ティムリムは小国ながらも攻撃的で、治安も悪く極貧である。
バルドル王国に少人数で攻め込んで来た事もあった。
今はバルドル王国の監視下に置かれて、抑え込まれているものの度々騒ぎを起こしていた。
残虐な国王が国を支配しており、自国民を戦闘員や工作員として育てた後に、他国へと送り込む。
虎視眈々と反逆の機会を狙っているのだそうだ。
その反面、ティムリムから亡命してくる者も少なくはない。
命懸けで逃げてくるティムリムの国民を保護する事は頻繁にある。
その民達をティムリムに追い返す訳にもいかずに受け入れるしかない現状だ。
国から出た者たちは裏切り者として処刑される。
無力な人々の中から工作員かどうかを判別するのはとても難しいようだ。
「ミッドデー国王陛下。名前からしてアマリリスの母親である"マヤ"という女性は…」
「………マヤは、ティムリム出身だ」
「え……?」
「そう問われれば、不思議なことも多々あった。今思えば、そうだったのかもしれぬ……」
ミッドデー国王の瞳から涙がポロポロと零れ落ちた。
マヤはティムリムから送られた工作員だとしたのなら、ミッドデー国王をずっと騙していた事になる。
直ぐにミッドデー国王に寄り添った。
ミッドデー国王は肩を抱きながら震える声で「すまない」と何度も何度も呟いた。
悲しみが痛いくらいに伝わってくるような気がした。
馬車が襲われた際に、ティムリムの工作員でアマリリスの母親である"マヤ"だけが無事で消えた理由も、今も見つからない理由も辻褄が合うような気がした。
マヤを想いながら、ペンダントに手を翳した。