80.報われる時(4)
ミッドデー王国の人間は太陽石を通じて、魔法のような力を引き出す事が出来るのだそうだ。
ペンダントの宝石の名前を知った後、本で調べた事があった。
そしてミッドデー国王の体中にあるギラギラと輝く金色のアクセサリー全てに、太陽石が嵌め込まれていた。
太陽石から出る淡い光は、どこか懐かしさを感じさせる。
ミッドデー国王は先程の笑顔とは裏腹に、鋭い眼光でリノヴェルタ侯爵達を睨みつけていた。
「ひっ……!」
ルーシベルタは腰を抜かしてガタガタと震えていた。
そして炎で作られた竜は三人を襲うように巻き付いていく。
「ギャアアアアアッ……!」
「熱いッ!っ、熱い!!」
「ーーッ助けてぇ、ヒィイッ」
炎の近くに居る筈なのに、何も熱さを感じなかった。
しかし三人は炎の渦に巻かれながら、火に焼かれる恐怖に慄き、叫び声を上げ続けた。
「楽に死ねると思うなよ……」
ミッドデー国王のトドメとも言える一言に、リノヴェルタ侯爵達は意識を失い、その場に倒れ込んだ。
炎の竜は一瞬で消え去り、周囲は何事もなかったかのように静まり返っていた。
ミッドデー国王は太陽石を使い、こんなにも大きな力を使うことが出来る。
もしかしたらアマリリスもこのペンダントに嵌め込まれている太陽石を使って無意識に何か大きな魔法を使ったのだろうか。
そうすればこの世界の人間ではない今の自分がここに居るのも、アマリリスが夢に出てきた理由も納得出来るような気がした。
リノヴェルタ侯爵家はバルバド国王の指示により、地下牢に拘束される事となった。
騎士達が三人を抱え上げて運んでいく。
ルーシベルタは両親共々、牢に逆戻り。
今度は救い出す人も居ないだろう。
意外な形で長年の夢を叶える事となった。
『ーーーありがとう、貴女のお陰よ』
そんな声が、ペンダントから聞こえたような気がした。
パーティーは中断され、また改めて開催される事となった。
その時の費用はミッドデー王国とミッドナイト王国で負担して、責任を取るような形で折り合いがついた。
周囲はミッドデー国王の力を目の当たりにして、リノヴェルタ侯爵家や使用人達を全て処刑するべきだと提案した。
ミッドデー国王は大いに納得したが、複雑な心境に返答出来ずにいた。
強く憎む気持ちとルーシベルタを許せない気持ちはあれど、ここまで成長出来たのは間違いなくリノヴェルタ侯爵家のお陰だからだ。
借金を残して居なくなった両親を恨みきれないのも同じ気持ちなのだろう。
心情を汲むような形で、処刑の次に重い処罰が下された。
リノヴェルタ侯爵家は爵位を剥奪され、全員……国外へと追放される事となった。
ミッドデー国王もそれで良いならと直ぐに納得した。
ルーシベルタの愚かな発言の数々、そして強欲なリノヴェルタ侯爵家は、自ら首を絞める形で表舞台から姿を消す事となった。
その後、三人はどうなったのか…………誰一人、知る者は居なかった。
シャロンはパーティー会場から連れ出された後、放心状態で狂ったように髪を掻きむしりながら「おかしい」「違う」と繰り返し呟いていたそうだ。
ハーベイの心を弄び、利用し続けていた事。
そしてミッドナイト王国の王族であると分かった上で、ユリシーズを手に入れようとした事。
そしてミッドナイト王国の女王を欺いた罪と、ミッドデー王国の王女であるアマリリスを殺害しようとした罪で牢へと入れられた。
シャロンには重い罰が課せられるだろう。
自分の幸せのためだけに生き、他人を容赦なく蹴落としていたシャロンを、誰かが"悪女"と言った。