79.報われる時(3)
「ルーシベルタッ!?」
「どうしたのですか!?いい加減に目を覚ましてくださいよ!!」
「黙れッ!!ルーシベルタ」
見たことのない両親の姿に戸惑っているようだ。
アマリリスを褒め称える両親の言葉が許せなかったのだろう。
そして今まで一度も叱られたことのなかったルーシベルタは、鬼のような両親の表情に戸惑い、声を上げた。
「ア、アマリリスは悪女だと、いつも言っていたのに…っ!」
「"悪女"だと……!?」
「お父様もお母様もいつも言っていたんだ……!見た目しか能がない卑しい女だとな!たかが一回、褒められたからと調子に乗るなよッ!アマリリスッ」
「ーールーシベルタッ!!今すぐ口を閉じなさい!」
「お母様……っ!?」
「いい加減にしろッ!ルーシベルタ……お前の未来を守る為でもあるんだぞ」
「だからってこんな女の父親に媚びずともッ…!」
小声でも十分に聴こえてくるリノヴェルタ侯爵の囁く声。
侯爵達の説得にも耳を傾ける事なくルーシベルタの暴走は続く。
「お父様とお母様は僕を愛している!お前は何も与えられなかったんだからな!ハハッ、僕の方が素晴らしい存在なのだッ」
ルーシベルタは周囲の注目を集めている事に気を良くしたのか、自分の優位性を皆の前で示すチャンスだと得意顔である。
「ほう……」
「折角僕が牢にぶち込んでやったのにっ!!いつまでも目障りな女だッ」
愚かにもミッドデー国王の前で、いつものようにアマリリスを罵ることによって、自らの首を絞め続けている。
ルーシベルタは己がアマリリスより上だと、ずっと教え込まれてきた。
いつもならば両親は自分を褒め称え、アマリリスを馬鹿にしている。
そうやってルーシベルタを育ててきた。
そして、人生を左右する大切な場で、今まで甘やかしてきたことが仇となった。
ルーシベルタ自身への教育の甘さと、嘘で隠しきれない真実が露わとなった。
頭の回らないルーシベルタは、両親の作戦を簡単にぶち壊していく。
今まで黙って聞いていたが、ペンダントを握り目を瞑った。
「……このペンダントだけが、わたくしの宝物でした」
「おいっ!そんなものを何処に隠し持っていたんだ!?お前のものは全部、お父様とお母様が売り払ったんだぞ!ハハッ、お前の部屋は今では物置なんだろう!?」
「……ぁ」
「!!」
「アハハハ!お前の居場所は、もうないんだよっ!!」
ペンダントがアマリリスの母親のものだという情報もルーシベルタは聞いていなかったのだろうか。
牢にいたせいか現状をよく把握していないのか、言いたい放題である。
それには厚かましいリノヴェルタ侯爵達の血の気も引いていく。
「もうよい…………アマリリスが、今までどうやって暮らしてきたのか理解した」
ミッドデー国王は先程とは一転して、静かに頷いた。
そしてこの会話を聞いていた全ての人達も、ルーシベルタの言葉で置かれていた状況を理解することとなる。
もう、どう頑張ったとしてもリノヴェルタ侯爵達の思い描いていた結末にはならないだろう。
「ここが……ミッドデー王国であったなら、お前達を今すぐに処刑できただろうに」
「は……?処刑?」
「ここがバルバド王国でなければ、今すぐ貴様の首を刎ねてやれるのに……誠に残念だ」
「……も、申し訳ございませんっ!!」
「ワシに嘘を吐き、娘を長年に渡り虐げ続けた事……許されることではあるまい」
「こっ、これは、何かの間違いで……ッ」
ミッドデー国王の言葉と共に、リノヴェルタ侯爵家の周囲を激しい炎が覆い尽くす。




