78.報われる時(2)
今更、家族を気取った所で嘘は直ぐにバレてしまう。
綻びは崩れてしまう事は目に見えている。
それなのに、こんな陳腐な作戦で本当に上手くいくと思ったのだろうか。
もし思っているとしたのなら、馬鹿馬鹿しくて言葉もない。
「はい、そうです」と言う訳が無いことは、自分達が一番よく分かっているはずなのに…。
「……お父様、あの方達はわたくしの"家族"ではありません。他人ですわ」
「な、何を言っているの…!アマリリスッ、いま大切な話をしているから黙りなさい!!」
「他人とは、どういう事だ…?」
ミッドデー国王は侯爵夫人の言葉を無視して、此方に体を向けた。
「わたくしは……ずっと孤独でした」
自分の生い立ちを淡々と語った。
ミッドデー国王の顔は次第に歪んでいく。
「……そんな時、義弟に裏切られ冤罪で牢に入れられました。でも、あの人達はわたくしを助けてくれなかった。後に罪がバレたら義弟はすぐに助けておりましたが。わたくしは冤罪だと分かった後も容赦なく切り捨てられました」
「なんだと…!?」
「ユリシーズ様が居なければ、今ここには立っておりません。お父様にも会うことは叶わなかった………恐らく、牢の中で死んでいたでしょう」
「……!」
「今のわたくしは、リノヴェルタ侯爵家の人間ではありません。荷物も捨てられ、除籍されました。ですが、今まで蔑ろにされ続けた屋敷を追い出されて清々しております」
「………」
「わたくしの家族はマクロネ公爵家の方達だけですわ。マクロネ公爵家の皆様が……ユリシーズ様が、わたくしを救い出してくれました。いつもわたくしを大切にして下さいました」
「ならば………アマリリスにとってリノヴェルタ侯爵家はどんな存在だ?」
ミッドデー国王の問いかけに、真っ直ぐリノヴェルタ侯爵達を見据えながら口を開いた。
「わたくしにとって、必要ない存在ですわ………本当ならば、二度と顔も見たくありません」
リノヴェルタ侯爵達はその言葉に激昂するのを耐えているようだった。
「ワシの問いに答えて欲しい。それは真実か……?」
ミッドデー国王は周囲を見渡し、そして後ろに居るジゼルにエルマーやハーベイ、そしてミッチェルやスペンサー、シルベルタ公爵やマクロネ公爵に確認を取るように視線を合わせた。
皆、強く頷いた。
「なっ、何を出鱈目をッ!!今まで我々は仲良く暮らしてきたじゃないか」
「そ、そうよ!嘘はやめて頂戴ッ」
「っ、今まで家族として仲睦まじく暮らして来たのです!アマリリスは器量もよく美しい!!第二王子の婚約者にまで上り詰めた自慢の子供で……!」
「ミッドデー国王陛下!信じてください!私達はアマリリスを心から愛し…っ」
リノヴェルタ侯爵家は必死に食らい付いて誤魔化そうとしている。
「……少し、黙ってくれないか」
陽気で明るかったミッドデー国王の声が低くなる。
「何方が真実なのか……理解は出来たつもりだ。しかし、何も知らないワシが決断を下すには早計過ぎる」
「お父様……」
「すまない、アマリリス……本当はお前の言葉を信じたい。しかしながら見極めるには双方の意見をもう少し聞かなければならぬ」
ミッドデー国王の言う通り、何が本当なのかを確かめる為には時間が足りないだろう。
けれど、ミッドデー国王の言葉にリノヴェルタ侯爵家は希望を見出したのか次第に口角が上がっていく。
「もし、アマリリスの言っている事が事実ならば、ワシは………」
そんな時だった。
思わぬ援軍が入る。
「ーーお父様、お母様…!何故、こんな男に媚びを売ることしか知らない女を褒めるのですか!?」