77.報われる時(1)
「ミッドデー国王陛下!!我々、リノヴェルタ侯爵家はアマリリスを孤児院から引き取り、こうして立派に育てあげました!」
「そうですわ!それはもう可愛い娘として……ねぇ?」
「ああ、その通りだ!」
「……!!」
二人の言葉に目を見開いた。
怒りと驚きと……そしてあまりの腹立たしさに言葉を失っていた。
「おお!お前達がマヤとワシの大切な娘を……!感謝しても仕切れぬくらいだな」
「そうでございます!是非、我々の話を聞いてくださいませんか?」
「是非、我が屋敷にお越し下さいませ」
「うむ、そうだな!幼い頃のアマリリスの話を聞かせてくれ」
「それはもう、とても可愛がっていましたよ!なぁ、アマリリス」
「アマリリスは私達に感謝していると、いつも言っていたでしょう!?」
当然のように言う二人の言葉に、ゾワリと鳥肌が立った。
(ずっとアマリリスを邪険にしていたのに……!)
手のひらを返したよう"愛しい"などと言うリノヴェルタ侯爵達。
二人の魂胆が透けて見えた。
ルーシベルタが牢に入ってから、バルドル王国でのリノヴェルタ侯爵家の評判はガタ落ちだった。
そして今回のパーティーで居場所がないことを実感したことだろう。
ミッドデー王国の王女だと判明したことで更に立場が悪くなると焦りを感じたのだろうか。
それとも育てた恩を売りつけ、ミッドデー王国に移り住もうとでもしているのだろうか。
ミッドデー国王が溺愛している様子を見れば、アマリリスを育てた自分達に恩恵が受けられると判断したのだろう。
リノヴェルタ侯爵達は目敏くソコに付け込んだ。
追い詰められた状況で再び甘い蜜を啜ろうと必死なのだろう。
ーーーそれを、許す訳がないのに
リノヴェルタ侯爵家にとっては、やはりアマリリスは道具でしかないのだ。
心の奥底に眠っていた憎しみの炎は一気に燃え上がる。
(そっちがそのつもりならば……こっちだって容赦しないわ)
険しい顔をしたユリシーズが口を開こうとするのを制して、震える手でミッドデー国王の手を握り、涙を浮かべた。
『よく覚えておきなさい……それでアイツらを地獄に突き落とすのよ』
『うふふ、大丈夫よ……貴女なら上手く出来るわ』
『頼むわね……わたくしは無理だったけど貴女ならきっと大丈夫よ』
あの時の言葉を思い出す。
アマリリスは一体何を知っていたのだろうか。
視界に映るのは、アマリリスを歪める原因を作り、苦しみを与え続けた元家族の姿。
深く息を吸い込んだ。
「お父様……」
"お父様"と呼ばれた事が嬉しかったミッドデー国王の興味は完全に此方に向いた。
リノヴェルタ侯爵達は顔を歪めて此方を睨みつけている。
まるで、話を合わせろ、言う事を聞けと言わんばかりに。
(もう、貴方達なんて全然怖くないわ……)
アマリリスはずっと一人だった。
孤独で悲しくて苦しくて…。
憎しみを胸に、血の滲むような努力をしてきた。
ただ、愛されたかった。
誰かと笑い合いたいと願った。
そして、共に歩みたいと思う人が出来た。
弱い部分を受け止めてくれる大切なマクロネ公爵家やララカ達の存在が助けてくれる。
(………だって今は、味方が沢山いるもの)
もう、何も怖がる必要はない。
今日に繋げる為に、自分がこの世界に来たというのなら……。
(絶対に、負けたりなんかしない)
「"いつか恩返しをしたい"とアマリリスは、いつも言ってくれたのですよ?リノヴェルタ侯爵家には育ててくれた恩が沢山あるからと」
「本当に私達が大好きで……っ」
何を言おうとしているのかを理解したリノヴェルタ侯爵と夫人は、言葉を遮ろうと必死に口を出す。




