74.明らかになる真実(4)
次の瞬間、悲鳴を上げたシャロンは激しく首を振る。
「ーー違う違うッ!!」
「……!」
「許せない、許せないッいらない要らないイラナイーッ!!」
此方を睨み上げるシャロンの仄暗い瞳は、狂気に満ちていた。
「消さなくちゃ……ああ、そうだわ!ウフフ……私の思い通りにならないなんてオカシイものッ!!」
何かを思い出したようにハッとした後、腰から小さな短剣を抜く。
そして此方に短剣を向けて走り出す。
すかさずユリシーズが前に出る。
ーーーガンッ!
ユリシーズによって手首を蹴り飛ばされたシャロンは、痛みと痺れで膝を突き、その場に蹲る。
「……ッ!」
「アマリリス、大丈夫か?」
「はい…!」
弾かれた短剣は床にカランカランと音を立てて転がった。
その短剣を回収したオマリと、シャロンを拘束したエルマーはすぐに騎士達を呼ぶ。
ジゼルとスペンサーに誘導されるように後ろに下がる。
「ーーーあ゛ぁあぁ!!離せぇッ!はなせぇぇっ!!」
大暴れしながら逃れようとするシャロンは、エルマー率いる騎士達に引き摺られるように連れて行かれてしまった。
未来予知の力に頼り、周囲に持て囃されたシャロンが、自分の力を過信し過ぎて転落した瞬間だった。
ミッドナイト王国にはこうして、シャロンのように未来を見通すことが出来る者が稀に生まれる。
それを"星読みの少女"と呼び、国を平和に導く存在として、とても大切にされているそうだ。
しかしシャロンは本来の正しい力の使い方も学べずに、どんどん自分の力に溺れていった。
シャロンの母親はバルドル王国の人間だった。
もしかすると、シャロンの名も知らない父親がミッドナイト王国の人間だったのかもしれないという結論に至った。
ユリシーズはずっと手を握っていた。
その手の中には色々な感情がこもっているような気がした。
「折角の祝いの場を騒がせてしまい、申し訳ないことをした……心から深くお詫び申し上げる」
「女王陛下……」
「一国の王として情けない限りだな。わたしは見事に踊らされていたようだ。また改めて出直そう……そなたには考える時間が必要だ」
「……」
「"俺の未来は俺が決める"……その通りだ。わたしは、そなたの意思を尊重しよう」
「……」
「ユリシーズ」
「……はい」
「そなたとゆっくりと話をする機会をくれまいか……?あの娘の言っていた話が嘘ならば、わたしはそなたの本当の事を何一つ知らぬ」
ミッドナイト女王は優しく微笑むと、ユリシーズの頬に手を添えた。
「息子に会いたいが故に、短慮な行動を取ってしまった。こんなわたしを許してくれ。そなたが生まれ……居なくなったあの日から、そなたの事を想わなかった日はない…………こうして触れることが出来る日を、ずっと待ち望み……再会を願っていた」
「!!」
「生きていてくれた……それだけで、わたしは満足だ」
「……俺は」
ユリシーズはミッドナイト女王の言葉に苦しそうに眉を寄せて俯いた。
ずっとバルドル王国の騎士として生きてきたユリシーズが、突然ミッドナイト王国の王太子と言われて戸惑っているように見えた。
女王が言った通り、考える時間が必要だろう。
(幸せになってもらいたい……そして出来れば、ずっと一緒に居たい)
ユリシーズはどんな時も守ってくれた。
だからユリシーズの助けになりたいと強く思う。
ユリシーズの強張った体をそっと包み込むように抱きしめた。
「ユリシーズ様、わたくしは……」




