73.明らかになる真実(3)
シャロンの言葉は、まるでアマリリスが冤罪だということを元から知っていたように聞こえた。
ハーベイは目を見開いたまま微動だにしない。
ジゼルは口元を押さえて、スペンサーとエルマーは顔を歪めた。
そして、ユリシーズは怒りを露わにする。
「まさか……貴女はアマリリスが冤罪だと知っていて黙っていたというの?」
「……お前、アマリリスをッ!!」
「そうよ?当然じゃない……元々嫌われ者だったんだから別にいいでしょう?」
「……!」
「それにアマリリスが牢に入ったって、誰も文句を言わなかったでしょう?未来が見える私に指図するからこうなるのよ……ッ」
アマリリスを貶めたのは、ルーシベルタだけではなくシャロンもだったようだ。
ハーベイを手に入れる為か、ユリシーズを手に入れる為か……今となっては分からないが、目的を達成するために邪魔だったのだろう。
「アマリリスは悪女で嫌われ者でしょう!?だから消えたっていいのよ!?消えるべきだったのッ」
「……」
「悪い噂だって沢山流したのに…!!なんで貴女がユリシーズ様と結婚するのッ!?おかしいわよ!」
次々にシャロン自身の口から暴露される罪……。
自分の幸せの為だけに、ハーベイを利用して、アマリリスを見殺しにしようとした。
全てを思い通りにしようと、強引な手を使うシャロンの事が許せなかった。
そして有りもしない悪い噂を流し続けて、ユリシーズとの仲を引き裂こうとしたのだろう。
けれどユリシーズはシャロンに靡く事は無かった為、強硬手段に出た。
ユリシーズを手に入れる為に、巧みに女王を騙したのだ。
(………これ以上、誰も不幸にはさせない)
仮にアマリリスが居なくなったとしても、シャロンは邪魔者が現れる度に、こうして誰かを貶めていくのだろう。
静かにシャロンの元へと向かう。
そして言葉を遮るように手を振りかぶる。
ーーーパァンッ!!
思いきりシャロンの頬を叩いた。
「……ッ、何すんのよ!!私は未来が見えるのよ!?貴女よりずっと価値のある存在なの!アンタは引っ込んでなさいよぉッ」
「………」
「ふんッ!!今更何をしたって変わらないわッ!私を叩いた罪でまた牢に入れられるのよ!私がミッドナイト王国の王妃になったら、絶対にお前を処刑してやる………!!」
それでも暴言を吐き続けるシャロンに憐れみを込めた視線を向けた。
シャロンが相容れない存在に思えた。
ミッドナイト王国の王妃どころか、ハーベイを利用し、スペンサーに歯向かい、女王を騙してバルドル王国に敵意を向けさせた。
立派な反逆罪になるだろう。
その罪は重く重く、のし掛かっていく。
事の重大さに全く気付いていないシャロンは、畳み掛けるように此方を責め続けた。
何も言わずにシャロンの言葉を聞いていた。
静かな会場に"アマリリス"の文句を言うシャロンの声がよく響いていた。
「ーーーなんとか言いなさいよッ!!」
叫び続けて肩で息をしているシャロンに、静かに問いかけた。
「わたくしと貴女………悪女は、一体どちらかしら?」
そう言うと、シャロンは正気に戻ったのか辺りをゆっくりと見回した。
「え……?」
シャロンに憐れみの眼差しを送るミッドナイト女王。
ユリシーズの嫌悪する態度と軽蔑する視線。
そしてバルドル国王や王妃、スペンサーとジゼルもシャロンを厳しい表情で見ている。
他の貴族達も同様だ。
ハーベイは顔を背けてしまった。
「………ぁ」
シャロンはペタリとその場に座り込んだ。
もう、誰もシャロンの言う"未来"を信じる事はないだろう。




