72.明らかになる真実(2)
「その髪色と瞳の色は間違いなくミッドデー王国の特有の色だ。よく見ると、あの男によく似ているではないか」
「あの男……?」
「最愛の妻と娘が消えて、他国と関わる事をやめた男の事だ……国の為を想うならば今すぐに国を開けばいいものを…愚かな王め」
ミッドナイト女王は静かな怒りを孕んでいるようだった。
やはりアマリリスはミッドデー王国の人間なのだろうか。
そして女王の様子を見たシャロンは焦ったように口を開いた。
「さぁ……ユリシーズ様、此方に来て私の手を取ってください!!」
「断る」
「っ、これは決まった運命なんです!!ユリシーズ様は私と一緒に居ることが決まってるんですよ!?」
「運命だと……?俺の未来は俺が決める」
「っ!?」
ユリシーズはシャロンの伸ばされた手を強く打ち払った。
「……どういう事だ?話が違うではないか」
ミッドナイト女王は二人のやりとりを見て眉を顰めた。
「俺は、アマリリスと結婚する」
「は……!?」
「どこの誰だろうと関係ない……"アマリリス"だから結婚したいと思った」
その言葉を聞いたシャロンから笑顔が消えた。
「お前と結婚する未来など……有りはしない」
シャロンは暫く放心状態で立ち尽くしていた。
そして体をワナワナと震わせながら「こんなの嘘よ」と呟いている。
「ど、どうして……!?私ちゃんとやったのに、私、夢で見た通りに動いたわよねぇッ!?なんで!なんでよッ」
「……」
「っ、貴方の出生を教えてあげたのよ!!この私がッ…!!私が居なければ貴方は、あんな男の騎士をしながら、そこの悪女と結婚するしかなかったのよ!?」
「………これ以上、俺の大切な者を侮辱するな」
「え……?」
「俺は、お前を許さない」
ユリシーズは迷わずシャロンに剣を向ける。
しかし剣を向けられても尚、ユリシーズを求めるように弱々しく手を伸ばす。
「違う、違うわ……ここは私を優しく抱きしめるところでしょう……?」
「……」
「貴方の妻になるのはこの私なのよ!?女王様も言っていたでしょう!?ねぇ、女王様」
ミッドナイト女王はシャロンとユリシーズ、交互に視線を向けた後に静かに口を開いた。
「我が息子がシャロンを心から愛し、わたしの迎えを心待ちにしていると聞いたのだ……手紙でやりとりを交わし、ミッドナイト王国の国王となる未来を待ち望んでいる。そして結婚の約束をしていると聞いたから承諾したに過ぎぬ。そしてバルドル王国の現状もな……」
「バルドル王国の現状……?」
「……あぁ、ユリシーズを取り巻く環境は酷いものだと聞いた。そして"早くしなければ手遅れになる"と、急かされて来たのだ」
どうやらミッドナイト女王の『直接、話を聞かねばならぬ。それ相応の礼をせねばな…』と言う言葉は、余り良い意味ではなかったようだ。
「そうですッ!私はユリシーズ様と心を通わせてっ、それでユリシーズ様は王になりたいって思っているの!何度も手紙のやりとりをしたでしょう!?そしたら段々と深い仲になって……っ!」
「………意味の分からない妄言を吐くな」
「…ッ!?」
「この状況を見る限り、話は全く違ったようだがな。まさか、わたしを謀ったのか?シャロン・メルメダ……」
ミッドナイト女王の鋭い眼光がシャロンに向けられた。
その言葉にビクリと肩を揺らす。
轟々と燃えるような怒りが女王の冷たい瞳から滲み出ていた。
あまりの圧力にシャロンは唇を震わせながら叫ぶ。
「ーーそうなる予定だったのッ!!間違いなく!ユリシーズ様との未来が見えてたの…!すべて、貴女のせいだわ!きっとそうだわ!その悪女が、また私を陥れようとしているのね」
「!!」
「……」
「あの時、予定通りに死んでいれば良かったのに…っ」