70.後悔と償い(3)
乱暴に扉が開く音が会場に響いた。
銀色の髪に、サファイアのような瞳ーー。
「………シャロン!?シャロンなのか!!?」
ハーベイの大声に会場の視線がシャロンへと集まった。
そこには見た事のない巫女のような服を着ているシャロンの姿があった。
「帰って…帰ってきてくれたんだね、シャロン!」
瞳にじんわりと涙を浮かべたハーベイが、嬉しそうにシャロンの元へと歩いて行く。
ハーベイとシャロンの様子を見ていた誰もが、感動的な再会になるのだと思っていた。
「シャロン、無事で良かっ………!」
「ーーユリシーズ様ッ!!会いたかった!」
「え………?」
シャロンはハーベイの事など目もくれず、ユリシーズの元へと真っ直ぐに走っていく。
しかし、ユリシーズの隣にいるアマリリスの存在に気付いたシャロンはピタリと立ち止まった。
そして、アマリリスを殺意の篭った瞳でギロリと睨みつけた。
「ユリシーズ様…!」
コロリと表情を変えたシャロンは、当たり前のようにユリシーズを抱きしめようと手を伸ばした。
ユリシーズはシャロンの手を避けて一歩下がった後に、アマリリスを庇うように抱きしめた。
シャロンはキョトンとした後に、ゆっくりと首を傾げた。
「どうしたんですか、ユリシーズ様…?」
「………俺に、触るな」
「ウフフ、照れないで下さいよぉ?」
「何のつもりだ……シャロン・メルメダ」
「そんな所にいないで、早くこっちに来てください」
ユリシーズに拒絶されているのにも関わらず、シャロンは嬉しそうにニコニコと笑っている。
噛み合わない感情と行動に、誰もが違和感を覚えていた。
その様子を見て、凍りついたように動けなかった。
シャロンは、やはりユリシーズに好意を持っている。
無意識に頭に過ったのは"また奪われてしまう"という恐怖だった。
「ーー失礼する」
そんな時、凛とした声が耳に届く……。
シャロンの後ろから豪華なドレスを纏い堂々と歩いてくる一人の女性。
その姿を見たバルドル国王と王妃は直に立ち上がった。
「ミッドナイト女王……!」
眩しい程に金色に輝く髪と瞳を持った女王が、シャロンの元へと歩いていき肩に手を添える。
「突然の訪問、誠に申し訳ない。"星読みの少女"が我が息子がこの国にいると教えてくれたのだ。居ても立っても居られずに此方に参ったのだが……どうやら書簡は間に合わなかったようだな」
「星読みの、少女……?」
「此方にいるシャロン・メルメダのことだ……我が国では未来を見通す力を持つ巫女を"星読みの少女"と呼ぶのだ」
シャロンは女王の言葉に満足そうに笑みを浮かべている。
シャロンが行方不明になった理由……それは自らバルドル王国を出て、ミッドナイト王国へ向かったからだった。
「シャロン………っ、一体これは、どういう事なんだ!?答えてくれ…シャロン!!」
ハーベイがシャロンの裏切りを目の当たりにして取り乱す。
必死に問いかけるハーベイを鬱陶しそうに見たシャロンは大きな溜息を吐く。
「………私の名前を気安く呼ばないでよ」
「…ッ!?」
「もう、貴方に用はないの……私に触れる資格は貴方には無いのよ」
「シャ、ロン…?」
シャロンはハーベイの元へ行き、耳元で冷たく言い放つ。
「いい加減うざいのよ……私が貴方を好きな訳ないじゃない。そんな事も分からないの?」
「…っ」
ハーベイが伸ばしていた手が徐々に下へと下がる。
目を見開き、絶句したまま動かないハーベイは「嘘だろう…?」と、微かに唇を震わせていた。
スペンサーはハーベイを庇うようにシャロンの前に立ち塞がった。
シャロンを鋭く睨みつけたスペンサー。
そんなスペンサーの表情を見ても、シャロンはフンッと鼻で笑っただけだった。