07.絶望的な牢屋ライフ(3)
牢に入れられる前に参加していたのが大きなパーティーだったからか、コルセットの締め付けもいつもよりもキツめだったようだ。
今日のパーティーは国の重鎮達が沢山出席していた為、誰よりも目立つ為にドレスにも気合いが入っていたのだろう。
アマリリスの一番のお気に入りであるマゼンタ色のドレスを着ている。
今ではその気合いが全て裏目に出ていた。
せめて囚人服のようなラフな格好に着替えさせてから牢にぶち込んで欲しいものだ。
記憶の中のアマリリスは、この状態で平然とダンスを踊り、長時間立ち続けて喋っていた。
それにコルセットをつけたことがなく、感覚的に慣れていないからか今は苦痛でしかない。
フラリと牢のベッドに横たわっていた。
(うおぉっ……我慢、出来ぬ!!)
パーティーが終われば取ることのできるはずのコルセットは永遠にアマリリスのウエストにあり、まるで拷問のように締め付けている。
(この国の令嬢達って、こんなに苦しい思いをしながらもウエストを細く見せたかったのね……)
その努力は賞賛ものだが、何事もやり過ぎはよくない。
お洒落は我慢がつきものだというが、これは明らかに体に良くない我慢である。
ーーーガチャン!
意識が朦朧としていた為、乱暴に鉄格子が開く音すら聞こえていなかった。
「大丈夫かッ…!?」
「うっ……!」
男が牢の中へ入ってきて、上半身を抱き上げたようだ。
あまりの痛みと苦しさに声を上げた。
顔が青白くなり、汗が滲む様子を見て何が起こっているのか理解してくれたようだ。
「コルセット………クソ、そういうことか」
騎士は「すまない」と小さく呟いた後に、背中に手を伸ばす。
ブチブチと乱暴に紐が解かれる音が遠くに聞こえた。
徐々に肺が広がっていく感覚に、大きく息を吸い込んでから息を吐き出した。
次第に血の巡りが良くなっていくことに気付いて、ゆっくりと顔を上げる。
(さっき侍女を呼びに行ってくれた騎士かな……?)
ぼんやりとした視界に映る騎士団の服を見て小さく呟いた。
「神様……ありがとう」
「!!?」
それにこの苦しみから解放してくれた名も知らない騎士は神に他ならない……。
ーーバチンッ
全てのコルセットのフックが外された。
解放感に涙が滲む。
(生きてた……っ!)
その喜びから無意識に目の前の騎士に縋るように抱きしめた。
酸素が体全体に行き渡り、意識がハッキリしていくのと同時に違和感に気付く。
目の前から感じるビリビリとする圧迫感。
まるで獣に威嚇されているような感覚に、騎士の背に回していた手をそっと離す。
すぐ眼前にある藍色の髪と金色の瞳、そして美しい顔……コルセットを外してくれたのは見覚えのある人物であった。
(もしかして………アマリリスが唯一"苦手な男"、ユリシーズ・マクロネ?)
ハーベイの婚約者の座を掴む為に、奔走していたアマリリスを観察するように静かに見ていたユリシーズ。
直接的に何かをされたわけでもなく、アマリリスもユリシーズに何をしたわけではないが、何故か互いに互いを嫌いあっている。
つまり今、互いの心は嫌悪感でいっぱいである。
ハーベイ同様、アマリリスの美貌やテクニックに全く靡くことはなかったユリシーズ。
現騎士団長であるマクロネ公爵の次男で、ハーベイとは幼馴染の関係だ。
そして、ハーベイの近衛騎士であり、その中でも隊長を任されている。
それがマクロネ公爵とハーベイの贔屓や指名かと思いきや、自らの力でそこまで上り詰めた実力者だ。