68.後悔と償い(1)
此方に気付いたルーシベルタがリノウェルタ侯爵の腕を突く。
今までとはかけ離れたアマリリスの姿を見て、驚いているようにも見えた。
ルーシベルタの事もあり、リノヴェルタ侯爵達の周囲には誰もいない。
今回のルーシベルタの行いと、リノヴェルタ侯爵達の息子への過剰な愛情も露見した。
そしてアマリリスの時は冷たく追い出したが、ルーシベルタの為には全力で動いた。
侯爵達の冷淡な一面に、アマリリスが受けていた扱いが透けて見えたのだろう。
(勝手に破滅してくれそうで何よりだわ)
それにルーシベルタのあの性格では、リノヴェルタ侯爵家の未来は真っ暗だろう。
故に、評判は地まで落ちていた。
幼い時は、あんなにも大きく心に影響を与えていた筈なのに、今ではこんなにも小さく陳腐に見える。
ユリシーズに体を擦り寄せて侯爵家を見下すように笑った。
今はリノヴェルタ侯爵家にいる時よりも、ずっと幸せな場所に居る。
自分が成功している姿を見せつける事こそが、最高の復讐なのかもしれない。
相手が不幸のどん底ならば尚更……効果は抜群だ。
リノヴェルタ侯爵達の怒りに震えて悔しそうな顔を嘲笑いながら、国王と王妃の挨拶の列へと向かう。
「ユリシーズ・マクロネ、婚約者アマリリス、参りました」
「あら、今日は一段と素敵ね!アマリリス、ユリシーズ」
「恐れいります、王妃陛下」
「ジゼルとドレスが似ているのね」
「ジゼルお姉様が選んで下さったのですよ」
「まぁ、素敵ね!わたくしは息子しか居ないから羨ましいわ」
「なら今度、三人でお揃いに致しませんか?」
「あらジゼル、良いアイデアね!すぐに作りましょう」
「母上、行動が早いですよ」
「当たり前じゃない!貴方達とは出来なかった事をジゼルとアマリリスと出来るんだもの」
楽しそうな王妃の姿にニコリと微笑んだ。
マクロネ公爵邸に食事に来た際にも、とてもユーモラスで兎に角パワフルな人だった。
雰囲気がジゼルに似ていて、初めは変化に驚いてはいたが、徐々に料理を通じて打ち解けることが出来た。
ジゼル同様、娘に接するように可愛がってくれている。
「またマクロネ公爵邸にお邪魔させてもらおう」
「陛下がお好きな南瓜を使った新作を考えたんですよ!香ばしくて甘くて蕩けちゃいますから」
「おお…!それは、ますます楽しみになった」
和気藹々と話す六人の側でハーベイは憂き目を見ていた。
話には聞いていたが、シャロンを選んだ以上、アマリリスの前に顔を出す訳にはいかなかった為、食事会に参加した事は無かった。
(僕も、アマリリスと向き合っていたら……今のアマリリスとユリシーズのように幸せを築けたのか?)
そんな疑問が頭をよぎった。
二人は肩を寄せ合い、愛おしそうに視線を合わせている。
それは長年、憧れていたスペンサーとジゼルを見ているようだった。
その一方で、シャロンとの関係はどうだろうか。
今日、共に参加する予定だったシャロンは行方知れず。
結婚の意思もない。
シャロンが居なくなり、熱が冷めつつある今だからこそ分かる事がある。
(……僕は、シャロンに利用されていただけだ)
答えは簡単だった。
けれど認めてしまえば、今まで間違いを犯し続けた自分が許せなくなってしまう。
ユリシーズと目を合わせたアマリリスは、自分の隣にいる時とは全く違う表情で幸せそうに笑っていた。
(こんな道もあったのか…)
まるで、罰を受けているようだ。
こうして幸せな二人の姿を見せつけられる事が、今の自分にとっては一番辛い事なのかもしれない。
楽しげに話す輪の中に入る事も出来ずに静かに俯いていた。




