66.嵐の前の静けさ(3)
「スペンサー殿下?」
「………君はとても興味深いね、アマリリス」
「……?」
「お待たせ、スペンサー!」
ドレスアップしたジゼルが慌てた様子でやって来る。
「ジゼル……今日も綺麗だね」
「うふ、ありがとう!アマリリスと何を話していたの?」
「バルドル王族に伝わる"色"の話だ。アマリリスは君の色をピタリと当てたから驚いていたんだ」
「あら、凄いわね!さすがアマリリスだわ」
「ジゼルお姉様が大好きですから」
「まぁ……!今の聞いた?スペンサー」
「ああ、聞いたよ」
ジゼルは手を伸ばして頭を優しく撫でた。
まるで本当の妹のように接してくれるジゼルが大好きだった。
「さて……もう出ないと観劇に遅れてしまうね。行こうか、ジゼル」
「えぇ!じゃあね、アマリリス」
「はい!いってらっしゃいませ」
スペンサーとジゼルは手を振って、仲良さげに寄り添いながら歩いて行った。
(………素敵)
二人を見ているとバルドル王国の未来も明るいような気がした。
汗をタオルで拭ってから、ジゼルの努力を無駄にしないようにと体を動かしたのだった。
*
ついに迎えた王家主催のパーティー。
朝早くから複数の侍女に体をピカピカにされながら考えていた。
(……今日、シャロンは現れるのかな)
スペンサーの言葉が本当だとしたら、シャロンは何をするつもりなのだろうか。
それに初めてパーティーに出るとあって、とても緊張していた。
前のアマリリスの記憶にもあるが、王家主催のパーティーは国中の貴族達が集まる盛大なものだ。
薄桃色とオフホワイトが混じった優しい印象のドレスは、以前のアマリリスならば絶対に選ばない色だろう。
ジゼルは薄水色とオフホワイトが混じったクールな印象のドレスでデザインがリンクしている。
目立つか目立たないかで言えば、あまり目立つような色ではないが、サラリとした手触りと細かく織り込まれたキラキラする石と花の刺繍が華やかである。
アマリリスのイメージは、どうしても毒々しく派手に思われがちだが、ドレスが清楚に振り切れているせいか丁度よく中和されている。
そしてララカの施してくれたメイクと髪型は兎に角ふんわりとしていて明るく、柔らかい印象である。
そして頭に花飾りを付けて完成である。
この姿と以前のアマリリスとではイメージが百八十度違うだろう。
(こんな綺麗な服、今まで着たことない……)
ララカは「花の妖精みたいです!」と言ってくれるのだが本当に大丈夫か不安である。
ララカが成し遂げたとでも言うように、満足気に息を吐き出して汗を拭った。
「………ねぇ、ララカ」
「何でしょうか?」
「変……「な訳ありません」
「でも……「とっても綺麗です」
「………はい」
有無を言わせないララカの圧に頷くしかなかった。
ドキドキする胸を押さえて、馬車へと向かう。
そこにはジゼルとエルマー、そしてユリシーズの姿もあった。
「も、申し訳ありません…!皆様をお待たせしてしまうなんて……!」
「わたくしも今来たところよ!それよりも見てッ!とっても可愛らしいわ、アマリリス!!!ねぇ、ユリ」
「……」
「ユリシーズ様……?」
「可愛くて言葉も出てこないってことかしら?もう、ユリッ!!」
ジゼルが微動だにしないユリシーズの腰をパンッと叩く。
「あ、あぁ……」
「少しはスペンサーを見習って、女性を褒めてみたら?」
ジゼルの言葉を聞いたユリシーズは咳払いをしてから此方を見るが、直ぐに視線を逸らしてしまう。
「綺麗……です」
「!!」
「……っ」
「ありがとう、ございます…」
頬が赤く染まる二人にエルマーとジゼルはうんうんと頷いていた。