64.嵐の前の静けさ(1)
いつの間にか、年に一度の王家主催のパーティーがあと一ヶ月と迫っていた。
そして……慣れないダイエットに励んでいた。
三食昼寝付きで体重が増加。
アマリリスのウエストは、元々かなり細かったのだが今は見る影もない。
コルセットにトラウマがあり、緩いコルセットばかり付けていた事が原因でウエストのサイズも増加してしまったのだ。
ユリシーズやエルマーは「そのままでも変わらない」というが、男性の変わらないは当てにならない。
そんな時、汗だくで運動しているとジゼルが慌てた様子で飛び込んでくる。
理由を尋ねると、なんとシャロンが一週間ほど前から行方不明になっているのだそうだ。
大事にならないように捜索隊が密かにシャロンを探していたらしいが、見つからずに公に発表される形となった。
誰かに攫われた痕跡は見つからず、部屋の荷物を自分で纏めた事を考えると、自らの足で出て行った可能性が高いとの事だった。
メモなどは残されておらず、手掛かりもない。
ハーベイはシャロンが何も言わずに居なくなった事に酷く落ち込んでいるようだ。
「……一体何処へ」
「分からないわ……けれど余りいい予感はしないわね」
「……」
「それよりもパーティーの事だけどね!」
ジゼルはパッと明るい声を出す。
公の場に出るのは牢に入れられる前のパーティー以来だ。
今回、やっとユリシーズの隣に堂々と立つ事が出来る。
ユリシーズが出席するお茶会やパーティーでは、未だにアピールする令嬢が絶えないのだそうだ。
ユリシーズは必ず「俺には心から愛する女性がいる」と言って断っているとジゼルから聞く度に顔を赤くしたのだった。
「アマリリス、よく聞いて頂戴」
「はい」
「このパーティーは、貴方達にとっての邪魔者を蹴散らすチャンスなのよ!だからユリと沢山イチャイチャするのッ」
「いちゃ、いちゃ………?」
「周囲にどれだけ貴方達が愛し合っているかをアピール出来るかが鍵になるわ!」
「な、なるほど…!」
「甘酸っぱくて、純粋で……もう最高に素敵でしょう!?」
「……えっと、はい!」
とりあえずジゼルの言いたいことは、何となくであるが伝わった。
とても楽しそうで何よりである。
「そしてアマリリスのイメージを払拭するのは、わたくしとリンクしたドレスッ!!髪型はララカに頼んでおいたわ。あとは今のアマリリスのままでいれば十分よ」
「わ、分かりました!!」
熱弁するジゼルの後ろから、影が迫る。
「ジゼル、僕との約束を忘れたのかな……?」
「スペンサー!?」
「アマリリスが困っているよ?それよりも早く着替えてきておくれ」
「オホホホ、わたくしったらつい夢中になって……アマリリス、しっかりね!」
「はい」
この国の第一王子であり、ジゼルの婚約者であるスペンサーは優しく微笑んでジゼルを送り出す。
国王や王妃、スペンサーはもう何度もマクロネ公爵邸に料理を食べに来ている。
レシピを考えて、フランとヒートが作る料理は、この国にはない味で王族にも好評だ。
「やぁ、アマリリス!元気そうで何よりだね。ところで、そんなに汗だくになって何をしてるんだい?」
「はい!もうすぐパーティーなので減量を…」
「ははっ、それは予想外だ。君は今のままでも十分だと思うけどね」
「殿方は皆そう言うのです!けれどユリシーズ様の隣に並べば、わたくしは霞んでしまいます!とても綺麗なんですよ!?少しでも努力せねば…!」
スペンサーは、その言葉に笑いを堪えているようだ。
「ふっ……ハーベイは何故、こんなに面白い君を手放したんだろうね」