表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/94

63.苦しい胸の内(4)




ーーーそんな時だった。




「シルベルタ公爵ッ……勝手に屋敷を歩き回るなど、どういうつもりですか!?」


「こ、これは……」


「姉上と兄上が、御二人を見送った筈なのに馬車があるからと…!まさかと思って来てみたら…ッ」


「…ユリシーズ!」


「いくら付き合いが長いとはいえ、許される事ではありませんよ……!」



昔から付き合いの長いシルベルタ公爵家とマクロネ公爵家は、幼い頃から交流があったとエルマーに聞いた事があった。


ユリシーズの荒い息がこちらにも聞こえてくる。

どうやら急いで駆け付けてくれたようだ。





「これ以上、アマリリスを傷つけるのは止めて頂きたい」





「だから、謝りに………!」


「ミッチェル様の事情は兄上から聞いて分かっています」


「ならばっ!」





「ーーーけれど、最初にアマリリスを拒絶したのは貴方達だッ!!」





ユリシーズの言葉に……瞳からポロポロと涙が溢れた。



「アマリリスは貴方達と会いたくない、話をしたくないから部屋にいるのです」


「……ッ」


「今の誠意のかけらもない貴方達の謝罪など必要ない!!無理強いはやめて頂きたいッ!」


「しかし……っ!」


「貴女達は何も知らない……アマリリスのことを」



ユリシーズの声に心が震えるような気がした。

我慢していた涙は次々に溢れていく。


静かに肩を揺らしていた。



「お引き取り頂けますか?今すぐに…!」



ユリシーズの声に怒りが滲む。


そして、部屋から遠ざかっていく足音。

シルベルタ公爵達はマクロネ邸から去って行った。


ララカが心配そうに扉を叩く。

急いで目元を拭って鼻を啜った。


見送りから戻り、扉越しに申し訳なさそうにしているジゼルとエルマーに、部屋から出ると心配を掛けないように微笑んだ。



「……大丈夫ですから」


「っ……!」



ジゼルとエルマー、そしてユリシーズは此方の表情を見て、苦しそうに顔を歪めた。

ユリシーズは頬をそっとなぞった。



「無理に、笑わなくていい……」


「……え?」


「泣きたい時は、泣いていい……泣いていいんだ、アマリリス」


「…っ」


「皆、貴女を大切に思っているわ。だから、もっと頼って甘えて頂戴……?」



ジゼルの言葉に唇が震えた。

喉が締め付けられるように痛んだ。

ポロポロと涙を流すとジゼルは優しく抱きしめてくれた。


ユリシーズはその晩、部屋で手を握りずっと側に居てくれた。

初めての感覚にふわふわと体が浮いているような感じだった。


人の温かい体温はとても懐かしく感じた。

ユリシーズとの時間は、先程まで潰れそうだった心が穏やかになるような気がした。


ユリシーズが部屋に戻った後、涙を拭ってから紙を取り出して羽根ペンを動かした。





次の日、少し腫れぼったい目で、朝早く出掛けるエルマーとユリシーズの元へと向かった。


そしてエルマーに数枚のレシピが入った封筒を渡した。


エルマーは涙を滲ませながら手を握り「……ありがとう」と何度も何度も言った。


その後、ユリシーズに抱きついて胸元に顔を埋めた。

ユリシーズは受け入れるように、手を背に回して優しく頭を撫でた。



「ありがとう、アマリリス……」



その言葉に、目を閉じた。

今までの気持ちが報われるような気がした。

小さく頷くと、ユリシーズは赤く腫れた目にキスを落とした。



「……っ!」


「行ってくる………今日も沢山話そう」


「はい!」




「………アマリリス、お前を心から愛してる」




「わ、わたくしもですっ!」



ユリシーズは柔らかい笑みを浮かべて仕事へと向かった。

真っ赤になった顔を押さえながら、フラフラと部屋へと戻った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エルマー、良かったね。マテができる男、エルマー。 婚約者ちゃん、元気になってね。
[一言] 涙が出ます ユリシーズ、最高に良い男です!
[良い点] よかった…脅迫みたいな謝罪を、アマリリスが傷付きながら受ける前に止めてくれる人がいて。 [一言] 公爵夫婦…子供を想う気持ちが強くてそれ以外見えてないんだろうけど、アマリリスはその我が子と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ