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57.静かな怒りの矛先は(4)



「こんな奴らの為に作る事ないですよ!」


「アマリリス様、帰りましょう!!」


「けれど……エルマー様がミッチェル様の為に何かしてあげたいと思っている気持ちは伝わったから、出来ることはやりましょう」


「……分かりました」


「アマリリス様が、そう言うなら…」



馬車の中で考えたメニューをフランとヒートに伝えながら作っていく。

料理人は厨房に女性が入ることを良しとしないのだろう。

居心地の悪い視線を背中に感じていた。



料理が出来上がり、フランとヒートと共にミッチェルの部屋に入った。



「お食事をお持ちしました」


「アマリリス!」



エルマーが待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。

手を握るベッドの先……小柄な女性が横たわっている。


しかしシルベルタ公爵と夫人は持っているトレイや皿を見て目を見開いた。



「貴女が………作ったの?」


「はい、料理人達と……」






ーーーバンッ






その瞬間、シルベルタ公爵が此方に近付いてきて、持っていたトレイを弾き飛ばした。


重湯に野菜をすりおろした瀞みのあるスープが全てこちら側に掛かる。

皿がカランカランと音を立てて床に落ちていくのがスローモーションのように見えていた。



「………」


「アマリリス様!!」


「ーーアマリリス様ッ」



フランとヒートが声を上げる。



「悪女めッ!!私の娘を毒殺する気か!!」


「ユリシーズ様だけでなく、ミッチェルの婚約者でもあるエルマー様まで奪おうというの!?噂通り意地汚い女だこと……!」


「お前の作ったものなど食えるものか……!」



シルベルタ公爵と夫人の言葉は、余りにも衝撃的すぎて声が出なかった。


(なるほど……そんな風に思っていたのね)


ミッチェルが食べ易いように冷ましておいて良かったと、どこか頭の中は冷静であった。



「ーーーそれ以上の暴言は私が許さない!!」



エルマーが声を上げて庇うように前に立つ。



「その女を庇うのですか!?」


「当たり前だ!アマリリスはユリシーズの婚約者……大切な家族だッ!アマリリスが一体、貴方達に何をしたと言うんですか!?」


「だ、だが……」


「ッ、アマリリスの提案したレシピが食べやすく、バルドル城でも評判が良いと聞いて是非ミッチェルにと……無理を言って今日、来てもらったのですよ!?」


「ぁ……」


「料理人達が作る料理は全てアマリリスが考えたものだと聞きました!その料理をッ、国王陛下も王妃殿下も王太子も口にしている……っ!我が妹のジゼルもだ」


「…っ!」


「つい、ミッチェルの為にと……きちんと、私が説明するべきだったのにッ!!」



エルマーはシルベルタ公爵家の対応の悪さに怒りを露わにして叫んでいる。


後ろでフランとヒートが公爵達に食って掛かろうとするのを片手で制した後に静かに息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。


髪と顔、それに洋服に思いきり掛かったスープを袖で拭うと、シルベルタ公爵と夫人を……真っ直ぐ見据えた。



「毒味ならば………わたくしが喜んでいたしましょう」


「……!!」


「見慣れない食べ物だと思いますが、ミッチェル様のお体には合うと思います」


「アマリリス……すまない!私がっ、不甲斐ないばかりに…っ、不快な思いを!!」



エルマーは声を震わせていた。


そんなエルマーの様子を見て、考えを巡らせていた。

ここで引いてしまえば、エルマーとシルベルタ公爵家の間に亀裂が走ってしまうかもしれない。


(嫌な予感って当たるものね……)


それにこの態度ならばエルマーが説明したところで、料理を作る前に追い返されたかもしれない。

そうなればフランとヒートも、シルベルタ公爵家の要求には応じずに踵を返すだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 公爵家の対応は勿論最悪ですが、エルマーの初期対応は更に悪いのでは…と。 こうなる事がわかっていたから、ちゃんと説明して間に入るためにいるのかと思ってたのに、全く役に立ってないような…そもそ…
[一言] うーん,あまりにも周囲の人を思いやりすぎるのも当人達にとってどうなのか。..後日謝罪に来るぐらいさせてからでもいいのでは?虐げられた主人公が立場回復したらすぐに悪人や悪口を許してあげるパター…
[一言] 昔の御屋敷なら、部屋まではカートとかに乗せて運びません? アマリリスが自らトレーに乗せて持ってきたように感じたので。
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