56.静かな怒りの矛先は(3)
そこには様変わりしたアマリリスを中心に寛ぎ、笑い合う使用人達の姿があった。
(あれが、アマリリスなのか……?)
グッと手を握った。
(今のアマリリスならば力を貸してくれるかもしれない……!)
そして縋る思いで頼み込んだのだ……。
「と、言うわけだ……必死になるあまりに言葉足らずだったかもしれない。すまなかった」
「そうだったのですね」
((((滅茶苦茶、怖かった……))))
あまりの勢いに、使用人達の心の声が一致する。
エルマーの震える手を握り返した。
ミッチェルに対する思い遣りと愛が痛いくらいに伝わったからだ。
それに、こんなにも良くしてくれるマクロネ公爵家の為に恩返しになるかもしれないと思った。
「次にシルベルタ公爵家に伺うのは、いつでしょうか?」
「今日だが……」
「なら、材料を持って直ぐに行きましょう」
「!?」
「フラン、ヒート…用意して頂戴」
「かしこまりました」
「調理用具はどうします?」
「シルベルタ公爵家の厨房を借りましょうか。あとはペンと紙もね……レシピを書いた方がシルベルタ公爵家の料理人達も分かりやすいでしょうから」
「……」
「ララカ、ユリシーズ様とジゼルお姉様が帰ってきたら、伝言頼むわね」
「はい」
「恩に着る……!アマリリス」
フランとヒートに準備を頼み、エルマーと共にシルベルタ公爵家へと向かう為に立ち上がった。
*
アマリリスが共に現れたことで、シルベルタ公爵家は分かりやすい程に嫌な顔をした。
事情や経緯を詳しく説明した方がいいのではと思い、エルマーをチラリと見るが、恐らくミッチェルの事で頭が一杯なのだろう。
ソワソワしていて話しかけようとするものの、訴えには気付いてはもらえない。
シルベルタ公爵達はどこまで知っているのかは分からないが、医者でも料理人でもないアマリリスが料理を作ると知れば、どう思うだろうか。
(嫌な予感がする……)
しかしエルマーを差し置いて、この場で言うことが良いとは思えない。
それに元々良い印象を持たれていないのに、自分から「ミッチェル様の為に参りました」と言うのも嫌味に聞こえてしまうだろう。
「ご無沙汰しております」
「何故ですか、エルマー様」
「ミッチェルにバルドル城で噂の料理を食べていただきたく、料理人を連れてきました」
「まぁ……噂の!」
「でも何故、罪人のアマリリスを!」
「アマリリスは冤罪でした。今はマクロネ邸に居るのは周知の事実の筈ですが……」
「ふん…っ」
見て分かる通り、全く歓迎されていないようだ。
フランとヒートが「帰りましょう」「クソムカつく」と後ろから声が聞こえてくる。
前のアマリリスしか知らないシルベルタ公爵家と、今のアマリリスしか知らないフランとヒート。
(複雑ね……)
「先に部屋へ行っている。宜しく頼む」
「はい」
「「……」」
敵意、疑心…色々な感情が折り混じった視線を感じていた。
シルベルタ公爵達とミッチェルの部屋に向かったエルマーはミッチェルの現状を詳しく聞いているようだ。
フランとヒートはシルベルタ公爵家の侍女に「厨房に案内致します」と声を掛けられたが「アマリリス様を案内して差し上げてください」と言った。
そんなフランとヒートに、侍女達は首を傾げている。
厨房に着いた後もコソコソと何かを言われているではないか。
完全にアウェイである。
何故、ここに自分が居るのか忘れてしまいそうになる。
ミッチェルの為に此処に居る筈なのに…。
(うわーすごい嫌な顔されてるな)
フランとヒートは、その態度に苛立ちを抑えられないようだ。




