50.新しい居場所(6)
「もうすぐ王家主催のパーティーでしょう?ユリシーズが初めてのパートナーと出席するパーティーだから気合が入っちゃったわ。ねぇ?ユリ」
「そうですね」
否定しないところも清々しいが、若干頬を染めているユリシーズを見ていると、こちらまで顔が赤くなってしまう。
互いに照れているユリシーズとアマリリスを見たハーベイは、手のひらを握り込んで顔を伏せた。
「シャロンもハーベイと出席するんでしょう?」
「いや……」
「えっと……まだ、迷っているんです」
「なら誰と出席するの?」
「……」
「それは……」
二人とも歯切れの悪い返事を返す。
バツの悪そうな顔をしているハーベイと、ユリシーズに縋るような視線を向けているシャロン。
どうやらシャロンとハーベイの関係は、あの時から全く発展してないようだ。
確かに二人が婚約したという話は聞かない。
だが、こうして一緒にいるという事は仲は良好のようにも見える。
そんな中、シャロンの敵意の篭った視線は相変わらずグサグサと突き刺さる。
「ふーん、そうなの?わたくしは、二人はお似合いだと思うけど……」
「……あはは、ありがとうございます」
シャロンはジゼルの言葉に苦笑いをしながら対応している。
その間、ユリシーズは気遣ってくれているのか「疲れてないか?」と声を掛けてくれた。
「大丈夫ですわ、ありがとうございます」
「ならいい」
シャロンはその様子を見て、焦りを滲ませている。
「あの、ユリシーズ様……ッ」
シャロンがユリシーズに触れようと手を伸ばした時だった。
ーーーバッ!
ユリシーズは思いきりシャロンの手を避ける。
空気を割くシャロンの手……シャロンは驚き、目を見開いている。
それは明確なユリシーズからの拒絶だった。
「何か用か?」
「……ぁ」
そう言ってユリシーズは護衛に手早く荷物を預けると、アマリリスの腰に手を回して引き寄せる。
まるで"アマリリスにしか触れるつもりはない"と見せつけているようだった。
「用が無いのなら失礼する……姉上、そろそろ行こう」
「そうね……それがいいわね。じゃあね、ハーベイ、シャロン」
「…はい」
「………」
三人はそのままアクセサリーショップに向かった。
ネックレスを選んでいる際に、ジゼルに「このペンダントをずっと着けていたいんです」と言うと、金色と赤を基調とした耳飾りを選んでくれた。
照れながら御礼を言うとジゼルとユリシーズは何故か嬉しそうにしている。
買い物が終わり、マクロネ公爵家の馬車へと向かった。
そして馬車が出発してから暫く経つと、疲れからかウトウトとユリシーズの肩に寄りかかって眠ってしまった。
そんなアマリリスの寝顔を見ていたジゼルが、厳しい顔で問いかける。
「………どうしてシャロンがハーベイの申し出を受けないのかが分かったわ」
「ああ」
「シャロンは…ユリを狙っているの?」
「……」
「アマリリスを思いきり睨みつけて……ついに本性が出てきたのかしら」
ジゼルの声に小さく頷いた。
「アマリリスから奪う気満々って感じね」
「始めはハーベイ殿下と仲睦まじい様子だった。なのに俺に妙な視線を送るようになった……そしてアマリリスが牢から出た瞬間からアマリリスを敵視している」
「……何故かしら。アマリリスとハーベイが婚約破棄をして、ハーベイと直ぐに婚約すると思ったのに。ユリにご執心な理由でもあるの?」
「分からない……牢に入ってから様子が違った。だが、理由までは分からない」
「でも、今のアマリリスは本当に前と別人のようね……今日だって、ずっと遠慮気味だったじゃない?わたくし達の選ぶものに文句一つ言わないなんて……以前だったら考えられないわね」




