表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/94

05.絶望的な牢屋ライフ(1)




(あー………もう朝か。なんで朝日って昇ってくるんだろう。ずっと月が出てれば、いつまでも寝てられるのになぁ)



両親が事業に失敗した。

そのまま蒸発した両親は家に帰ってくることはなかった。

膨大な借金は子供である自分に重たくのし掛かる事になる。


しかし、そのことに絶望している暇はなかった。


仕事に追われて、取り立てに来る借金取りに捕まりながら働いて働いて働いて……。

金利は膨れ上がるばかりで、一向に減らない借金。


(……お腹空いた。でも今日は居酒屋のアルバイトがあるから賄い料理が食べられる)


その為に今日も頑張ろうと重たい体を起こす。


意識がハッキリすると、目の前に鉄製の格子が見えた。

そして自分がその内側にいる事に気付いて、ゆっくりと首を傾げた。


気のせいかと思い、目を擦ってみても目の前の鉄格子は消えない。

罪を犯した覚えはないのに牢屋に入れられているのは何故だろうと必死で考えていた。


(借金取りさん達が、またドッキリか何か仕掛けたのかな……?)


何かの間違いだと思い、助けを求めようと辺りを見回してみても誰も居ない。



「あの…………誰かいません、か?」



静かな牢に響いたのは自分の声ではなかった。



「え……!?喉、は痛くないし……変声期?そんな訳ないか」



両手を見ると、水仕事や警備のアルバイトなどで乾燥してゴツゴツとしている自分の掌ではなく、白く長い指に綺麗に整えられた爪があった。


(なに、何が起こっているのーー?)


何度かグーパーグーパーと握ってみるが、やはり自分ではない体が自分の意思で動く不思議な感覚に違和感を感じていた。



考えること数十分……。



暫く目を閉じてから目を開けてみるものの、景色は変わらない。

こうなってくるとボロボロのアパートが恋しくなってくる。


辺りを確認する為に鉄格子に顔を食い込ませて首を動かすが、何も見えない。

ぽちゃんぽちゃんと天井から水が落ちる音が後ろから聞こえて、奥にあった水溜まりを覗き込む。



そして、そこに映った美しい顔に息を呑んだ。



(さっきの夢に出てきた綺麗な人だ……)



「アマリリス・リノヴェルタ……」



名前を呼んでみると、激しい頭痛と共に、アマリリスの記憶と先程見た夢を鮮明に思い出す事が出来た。


婚約者のハーベイを密かに慕っていたが、ハーベイとシャロンが想いを寄せている事に気付いたアマリリスは自分の居場所を守るためにシャロンを牽制する。


お互いを想っていたのに、アマリリスの前では"友人"と否定したシャロンとハーベイ。

けれど二人は密会を繰り返していた。


(浮気というやつだろうか……)


次第にアマリリスの居場所はシャロンに奪われていく。


けれどそんな時、アマリリスは何故かシャロンを階段から突き落とした犯人にされた。

家族も、ハーベイも最後までアマリリスの言葉に耳を傾けることはなかった。




ーーーそして、アマリリスは牢に入れられた。




そんな中、不思議と頭に浮かぶもう一つの記憶があった。



それは、このままでいくと"アマリリスが牢の中で死んでしまう"というものだった。



ハーベイとハーベイの婚約者になったシャロンが牢屋を訪れて、アマリリスに問いかけるのだ。


「シャロンに誠意を込めて謝罪すれば、シャロンはこの件を許してもいいと言っている」


けれどアマリリスは静かに首を振った。


「わたくしは、絶対に認めません」


罪を犯したアマリリスはリノウェルダ侯爵家から縁を切られた。

誰もアマリリスに手を差し伸べる者は居なかった。


その日から何を言われても、ずっと口を開くことはなかった。

ただ静かに憂いを帯びた瞳で何かを考えているようだった。

そして何も口にせずに、衰弱して死んでいったのだ。



そんな未来が不思議と頭に思い浮かぶ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ