48.新しい居場所(4)
今になって考えてみるとリノヴェルタ侯爵達がアマリリスの事を放置していたから、アマリリスは自分の出来る方法で色々なものを得ていたのだろう。
それが結果として"悪魔"や"悪女"と呼ばれるのは、切ないような気がした。
ジゼルに次々と宛てがわれれるドレスに息を呑む。
「前は派手な色を好んでいたわよね?」
「あ……はい」
「でも意外と何でも似合いそうね!今は柔らかい雰囲気だから……淡い色かしら」
「姉上、これは?」
「あら、ユリ!貴方なかなかセンスがいいわね……わたくしも負けないんだから!」
次々に目の前に積み上がっていくドレスの数々。
ハラリと値札が見えた瞬間に息が止まった。
(ね、年収………!!桁がッ、桁がおかしい!!)
以前稼いでいたお金よりもずっと高い値段のドレス達に小刻みに体が震えてしまう。
「……あの!わたくし、こんなに高いものは」
「何言ってるの!アマリリスが前着ていたドレスはこれよりも、もっと値段がしてると思ってたけど」
「で、でも…こんなに沢山は必要ありません!それに居候の身で申し訳ないですし……」
「あら、アマリリス。貴方はユリと結婚するのよ!!それにユリもやっと女性を着飾る楽しみに目覚めたんだから付き合ってあげましょう?」
「…あの」
「ね……?」
「……ひゃい」
ジゼルとユリシーズの勢いが止まらずに立ち尽くしていると、一人の男性が此方に声を掛ける。
「お嬢様、そちらのペンダントはどこで…?」
「え……?」
「宜しければ、私に少し見せていただけませんか?」
思わずペンダントを庇うように握りしめた。
「申し訳ありません!怖がらせるつもりはなかったのです。つい懐かしいなと……」
「このペンダントを知ってるんですか!?」
「はい、ペンダントというよりは嵌め込まれた宝石に覚えがあるのです」
その言葉に目を見開いた。
夢の中でアマリリスが言っていた。
『今日から、そのペンダントを毎日身につけなさい』
アマリリスが言っていたのは、この時の為だろうか。
こんなに早くペンダントについて触れてくる人がいるとは思わずに驚いていた。
それに、もしかしたらアマリリスの事について知ることが出来るかもしれない。
「これはミッドデー王国の代表的な宝石です。ここに嵌め込まれている燃えるようなクリムゾンレッドの宝石は別名"太陽石"と言うんですよ!しかもこれ程、純度が高いとなると、とても珍しい」
「……ミッドデー、王国」
「お嬢様のその髪もミッドデー王国ではよく見る色ですよ。バルバド王国ではあまり見ない珍しい色ですよね?」
「そうなのですか!?」
「私の母がミッドデー王国出身なのですよ。だからとても懐かしく感じてしまって……」
ミッドデー王国ではよくある髪色……。
それにミッドデー王国の宝石が嵌め込まれたペンダント。
もしかしてアマリリスの本当の両親はミッドデー王国に関係しているのだろうか。
このペンダントにアマリリスの出生のヒントがありそうである。
(……アマリリスは、この事を伝えようとしていたのかな)
「……わたくしは、バルバド王国の孤児院で育ちました」
「孤児院!?」
「はい、なので両親の顔は知りません」
「なんと……!そんな、いや…まさか」
「…?」
「あのお嬢様、歳を伺っても……」
「十九になります」
「!!」
その男性は目を見開いて口元を押さえていた。
「お嬢様、そのペンダントをよく見せて頂けますか?」
「はい……どうぞ」
「……ッ」
「……?」
「こ、この紋章は……まさか!そんな…っ」