46.新しい居場所(2)
『…………起きなさい』
「んぅ……?」
まるで雲の上に居るみたいにふわふわしていた。
気持ちよく寝ているのに、誰かが肩を揺らしているような気がした。
『わたくしが、起きなさいって言っているのよ』
「……ふへ、へっ」
『……』
「ーーーブッ!!」
額に強い衝撃を感じて、思わず飛び起きた。
寝惚け眼で辺りを見回してそこには見覚えのある顔があった。
目の前に居るのは………。
「……アマ、リリス?」
不機嫌そうに腕を組んでいるのは、アマリリス・リノヴェルタだった。
派手な化粧、真っ赤な唇。
マゼンタ色のドレスを着たアマリリスが目の前に立っていた。
『今は貴女が"アマリリス"でしょう……?』
「え……?」
『こんな芋くさい子が、わたくしの体を動かしていると思うと腹立たしい気もするけど……ユリシーズを落とすなんて、なかなか見込みがあるじゃない』
「……」
『ちょっと、なんとか言いなさいよ……』
アマリリスは眉を寄せて腕を組み直した。
先程から思っていたことがあるのだが……同じ容姿なのに中身が違うと、こんなにも雰囲気が変わるものなのだろうか。
「……とても、綺麗ですね」
『当然よ。努力したもの』
「滲み出る色気が……羨ましいです」
『ふふ、面白い子……そんな貴女だから、わたくしの未来が変わったのね』
「!?」
『貴女が未来を変えてくれた………本当は、わたくしの手で全てをぶっ潰してやりたかったけど、ルーシベルタが牢に入って、あの人達が苦しんでる。いい気味だわ』
「アマリリス、貴女は……」
『わたくしの体は貴女にあげる。わたくしはもっと面白いものを見つけたから…』
「面白いもの?」
『いい?アマリリス、良い事を教えてあげる…』
そう言って唇に人差し指を寄せた。
同性だとしても艶美なアマリリスに釘付けになってしまう。
『今日から、そのペンダントを毎日身につけなさい』
「コレ、ですか……?」
アマリリスの唯一の宝物であるロケットペンダント。
これを毎日身につけると何かあるのだろうか。
『よく覚えておきなさい……それでアイツらを地獄に突き落とすのよ』
「え……?」
『うふふ、大丈夫よ……貴女なら上手く出来るわ』
アマリリスは妖艶に微笑みながら頬をそっと撫でる。
『頼むわね……わたくしは無理だったけど貴女ならきっと大丈夫よ』
「アマリリス……?」
『………じゃあね、アマリリス』
ーーー幸せにならないと、許さないわ
ゆっくりと目を開いた。
起きたばかりなのに心臓がバクバクと音を立てていた。
(夢に、本物のアマリリスが出てきた……!すっごい綺麗だった)
興奮気味に体を起こす。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
もう此処は牢ではない。
マクロネ公爵邸の自分の部屋の中だ。
立ち上がってカーテンを開けた。
ふと窓を覗き込むと、ユリシーズが朝の鍛錬を行ってる。
(凄い……)
ユリシーズの強さの秘密は毎日積み上げている努力もあるのだろう。
キラキラと朝日に光る汗が眩しい。
(……ララカとオマリは元気かしら。フランとヒートにも会いたいわ)
今日はジゼルと買い物に行く予定だ。
ジゼルは背が高くスラっとした美人なのだが、次期王妃として男女共に人気があるそうで、向日葵のように明るい快活な人である。
ユリシーズが剣を振るう様子を窓からずっと見ていた。
どのくらい時間が経ったのだろう。
コンコンという軽快なノックと共に数人の侍女が中へと入ってくる。
「「「おはようございます、アマリリス様」」」
「お、おはようございますッ」
マクロネ公爵邸に来た時から思っていた事があった。
それは皆、ノリが体育会系である。
そして動きが早い。




