45.新しい居場所(1)
「ところで、そちらの方は……とても美人だけど」
ジゼルはキラキラした瞳で此方を見ている。
着替えもなかった為、牢の中で着ていた簡素なワンピースを着ていた。
確かにド派手に着飾っていたアマリリスからは想像できない質素な姿である。
それに今は化粧もしていない。
ジゼルが見間違うのも無理はないだろう。
「姉上、彼女がアマリリスだ」
「ーーーえ!?」
「アマリリスだ」
「……!?」
ジゼルは目を丸くしている。
「じゃあ彼女がユリの…?」
「ああ」
「……」
「よ、宜しくお願い致します……」
この後、固まっているジゼルにユリシーズが牢の出来事やプロポーズした経緯。
そして、先程のリノヴェルタ侯爵家で起きた事を説明する。
すると手を握りながら鼻を啜るジゼルは、ブンブンと手を振りながら涙を流している。
豪快で大胆なところがマクロネ公爵に似ているような気がした。
「改めて宜しくね、ジゼル・マクロネよ!今から屋敷を案内するわ」
「アマリリスです……不束者ですが」
「いいのよ、そんなに固くならないで!先程はごめんなさいね!あまりにも雰囲気と格好が違ったから……以前は挨拶しても素っ気なかったし、わたくしと話すのはあまり好きじゃなさそうだったから」
「いえ…そんなことは」
「スペンサーにもよく注意されるの……興奮すると早とちりする癖があるからって!でもそんな所も可愛いっていつもいつも…」
「………姉上」
「はっ……ごめんなさいね!やっぱりお父様の格言は本当ね!ちゃんと自分の目で確かめなくちゃ」
「あの……ジゼル様」
「それにユリは、あまり甘えてくれないから…ユリったら遠慮もあると思うんだけど、全部自分で決めちゃうのよ?わたくしは心配で心配で!」
「姉上、俺はもう子供じゃない」
ユリシーズに止められたジゼルは屋敷を案内する為に歩き出した。
ジゼルがユリシーズの事を話す時は、まるで母親のような優しさが滲み出ている。
リノヴェルタ侯爵家とは比べものにならない程の豪華な屋敷に萎縮していると、ジゼルの足が止まる。
「ここが貴女の部屋よ!アマリリス」
「こんなに良い部屋を……!ありがとうございます、ジゼル様」
「気軽にお姉様って呼んで頂戴」
「え…?」
「わたくし、ずっと妹が欲しかったの!だから嬉しいわ」
「ふふ、嬉しいです……わたくしもジゼル様のようなお姉様がずっと欲しいと思ってました」
「まぁ!こんなに優しくて素敵な子だったのなら、もっと仲良くしておけば良かったわ……」
恐らくアマリリスはジゼルの無条件の優しさを前に、どう対応していいか分からなかったのだろう。
「アマリリス………今までの分もわたくしに一杯甘えて頂戴ね!」
「そうさせて頂きます」
「今日はゆっくり休んでね。明日は街に買い物に行きましょうね!必要なものを揃えましょう」
「ありがとうございます……!お世話になります」
(長い物には巻かれろ……うん、間違いない)
様々な職場を転々としてきたせいか、早く馴染む為にどうするべきかは体に染み付いている。
ジゼルは元気に手を振りながら去って行った。
部屋でスタンバイしていた侍女達に囲まれて全身を綺麗に磨かれた。
何の偏見もなく普通に接してくれるマクロネ邸の侍女達。
侍女達が出て行った後、ふかふかのベッドに寝転がった。
つい先日まで固いベッドで寝ていたのに…。
けれどマクロネ公爵家はリノヴェルタ侯爵家とは真逆で、とても温かい場所だと思った。
(新しい居場所……嬉しいな)
胸元にあるロケットペンダントを握り締めた。
直ぐに瞼が重たくなっていき、そのまま眠りに落ちた。