44.二人の距離(6)
あの時、ユリシーズが厳しい顔をしていた理由が分かった気がした。
まさか、直接ユリシーズに打診するとは思わなかったが……。
(ルーシベルタの事になると人が変わるもの……愛する息子が牢に入って居ても立っても居られないのね)
「あぁ……」
「ルーシベルタは、どうなるのですか?」
そうなると気になるのはルーシベルダの処罰である。
「暫く話を聞いていたが、もうメルメダ伯爵家やシャロンにも謝罪して和解金を支払ったようだ。あとは保釈金を支払えば……ルーシベルタは外に出る事になるだろう」
「………!」
「金で解決するつもりだろうな……全く、馬鹿馬鹿しい限りだ」
それを聞いて、口があんぐりと開いたまま塞がらなかった。
つまりアマリリスの時は、死のうがどうでもいいし好きにすれば状態だったが、ルーシベルタの時は全力で守ろうと動いているということだろう。
流石にこれだけの差を常に見せつけられてしまえば、理不尽さに嘆きたくなる。
深い憎しみも生まれるに違いない。
呆れてしまい、溜息すら出てこなかった。
「大丈夫……お前はもうマクロネ公爵家の一員だ。父上が気に入ったのなら問題ない」
「わたくしは気に入られたのですか……?」
「ああ」
どうやらあの「ガハハハ」は気に入った証なのだという。
今日からマクロネ公爵家に花嫁修行という建前の元、屋敷に住まわせてもらうのだ。
三食昼寝付きのビックリするほどの好待遇である。
「父上の口癖でな……"自分で見たものを信じろ"といつも言われていた」
「自分で、見たもの……?」
「噂に振り回されるのではなく、自分で見た真実を信じろということだ。貴族社会においても騎士にとっては必要なことだ」
「……そうなのですね」
だからユリシーズは、悪女であるアマリリスとも真っ直ぐ向き合って接してくれたのだろう。
ユリシーズが居なければ、コルセットのせいで圧死していたかもしれない。
「ユリシーズ様、わたくしを救い出してくれてありがとうございます」
「………」
「わたくし、ユリシーズ様と出会えて本当に良かったです」
「……俺もだ。アマリリス」
ユリシーズを慕う騎士達の気持ちが理解できたところで、マクロネ公爵邸に到着したのだった。
馬車から降りると、一人の女性が門の前でウロウロと歩いていた。
ユリシーズのエスコートで馬車から降りると、凄い速さでアマリリスとユリシーズの元に近づいて来る。
「ーーーユリ!貴方また、わたくしに何の相談も無しに決めたのねッ!!!しかも相手はハーベイの元婚約者、アマリリスでしょう!?」
女性は興奮気味で、ユリシーズに掴みかかる勢いである。
「わたくしも何回か顔を合わせた事あるけど、アマリリスは魔性の女よッ!色気がすごかったもの!男はああいう女性が好きなんだって分かっているけど、すごく羨ましかったわ……!」
「「……」」
「……はっ!そうじゃなくて、わたくしにも相談してくれなきゃ寂しいっていつも言っているじゃない!もっと姉であるわたくしを頼って頂戴」
「落ち着いてください、姉上」
目の前の女性は、ハーベイの兄であるバルバド王国の王太子スペンサーの婚約者……マクロネ公爵の長女、ジゼル・マクロネである。
年に一度の王家主催のパーティーや、晩餐会などで顔を合わせた事はあるが、アマリリスはジゼルに対して戸惑いの感情があるようだ。
ジゼルは此方に興味津々で、仲良くしようとガンガンと話しかけてきたが、その時アマリリスは珍しくどう対応すればいいか分からないといった様子で、ジゼルと顔を合わせないように避けていたようだ。




