04.はじまりの物語(4)
シャロンは銀色の髪にサファイアのような美しい瞳を持っている愛らしい少女であった。
自分とは真逆の見た目と性格。
庇護欲を誘う可愛らしい姿……。
誰かがシャロンを見て、神から愛された少女だと言った。
仲良く寄り添う二人を見て愕然としていた。
シャロンの隣で嬉しそうに笑うハーベイの気持ちに、すぐに気付いてしまったからだ。
自分の前とは全く違う態度や表情で話すハーベイの姿を目の当たりにした瞬間、目の前が真っ黒に染まるのを感じた。
自分が今までやってきたことが、そのまま返ってきたような気がした。
『貴女の魅力が足りないのよ』
今まで当然のように言ってきた言葉がナイフのように突き刺さる。
すぐにシャロンと接触した。
戸惑うシャロンは「ハーベイ殿下とはお友達ですけど」と、言ってはいたが、とてもそうは思えなかった。
少なくともシャロンもハーベイの気持ちに気付いた上で応えているような気がした。
白々しいシャロンの態度が腹立たしくて仕方なかった。
「なら、どうしていつも一緒にいるのよ?」そう問いかけると「たまたまですよ?ハーベイ殿下は誰にでも優しく、良くして下さいますから」と嬉しそうに手を合わせながら言ったのだ。
確かに、ハーベイは誰にでも優しかった。
アマリリスでなくとも泣いている御令嬢にハンカチを差し出して、囲まれて責められている者がいれば仲裁に乗り込んでいく。
それは分かっていた。
分かっているから悔しくて堪らないのだ。
ハーベイの特別は、このシャロンという御令嬢にあると見せつけられているような気がした。
それからはこれ以上、二人の仲が深まらない様にシャロンの前に立ちはだかり「婚約者でもないくせに、ハーベイ殿下に近付くな」と牽制を繰り返した。
悲しげに謝るシャロンを見ていると心が少しだけ晴れやかになる。
けれど、シャロンは着々とハーベイとの仲を深めているように見えた。
此方に隠れては愛を誓い合う言葉を吐き、体を密着させて見つめ合う二人の姿。
シャロンとハーベイが結ばれるのは時間の問題なのかもしれない……そう思ったアマリリスはハーベイを問い詰めた。
しかし、ハーベイもシャロンも互いの仲を否定する。
周囲では「シャロン様とハーベイ殿下の方がお似合いだ」と、噂が広がっていた。
そんな時、パーティーに出席している最中に騎士が来た。
"ついに悪女アマリリスがシャロン様を階段から突き落とした"
そしてシャロンが大怪我を負ったというものだった。
ハーベイは怪我をしたシャロンに付き添っているというものだ。
意識が戻ったシャロンは「……ダークチェリー色の髪と、マゼンタ色のドレスが見えました」と言った。
その言葉と、数人の目撃者によってその場で拘束される事となった。
勿論「突き落としていない」と否定した。
アリバイもあったのだが、シャロンを階段から突き落とした犯人となった。
"ハーベイとシャロンとの仲に嫉妬したアマリリスがシャロンを殺害しようと突き落とし殺そうとした"
罪人として牢に入れられることとなった。
それと同時に、あんなに苦労して手に入れたハーベイとの婚約はあっさりと破棄された。
牢に入る前、軽蔑するようなハーベイの視線を見て目を見開いた。
誰も擁護してはくれなかった。
信じてくれる者は誰一人いなかった。
薄暗い牢の中で静かに佇みながら己の人生を振り返っていた。
誰にも愛されず、誰かを傷つけて、皆に嫌われて、自分は一体何がしたかったのだろうと。
(ただ、愛されたかっただけなのに……)
底無し沼のように闇に引き摺られていくような気がした。
「どうして……」
静かに目を閉じた。