表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/94

39.二人の距離(1)



ユリシーズに結婚を申し込まれたことにより、路頭に迷う事はなくなった。


"悪女アマリリスが牢の中でユリシーズを射止めた"


そんな話は瞬く間に社交界に広まったのだった。


暫く城に滞在している間、ユリシーズは休みなく駆け回っていた。


反対意見も多い事だろう。

それに色々な手続きがあるらしく、直ぐに籍を入れられる訳ではないらしい。



只今、アマリリスは絶賛平民中である。



そしてユリシーズに連れられて、マクロネ公爵家に向かった日のことだった。



玄関で仁王立ちをして待っていたのは見上げるほどの大男であった。

立派な髭を生やした貫禄のあるマクロネ公爵は、二人の前に立ち塞がった。


そして、静かに口を開いた。



「この結婚は殿下の為ではなく、お前の意思なのか…?」



そう問いかけたマクロネ公爵にユリシーズが答える。



「はい」


「そうか……お前が決めたのならば、何も言う事はない」



マクロネ公爵はそう言って静かに頷いた。

二人の間には固い絆と信頼関係があると一瞬で分かるやり取りだった。


ボーッとしながら、そのやり取りを見ていると、ふとマクロネ公爵と目が合った。



「今回は大変だったな」


「………いえ」


「ユリシーズと結婚するのは構わない。二人で決めたのならば反対はせん」


「はい…」


「アマリリス……いくつか質問をしてもいいか?」


「勿論です」



返事を返すとマクロネ公爵は「うむ」と大きく頷いた。

きっと、これまでの事を厳しく問われると思い、マクロネ公爵の圧にゴクリと唾を飲み込んだ。






「目の前に熊が現れた。さぁ、どうする……?」






あまりにも意外すぎる質問に目を丸くした。

ユリシーズをチラリと見ると、答えてくれと言わんばかりの視線を向けられる。



「……………熊、ですか?」


「そうだ……何だっていい。何かに襲われた時、どうする?」



冗談なのかと思いきや、マクロネ公爵は至って真剣だ。

ならば真面目に答えなければと声を張る。



「全力で逃げます……もしくは、その場にあるもので戦いますわ」


「ならば突然、街に放り出されたらどうする?」


「街に……?食料と寝る場所の確保……手持ちがなければ直ぐに仕事を探します」



目の前に借金取りが現れたら全力で逃げる。

身ぐるみ剥がされたら食料、寝る場所、仕事の確保をする……どれも常識である。


まるで騎士団に入る前のような逞しい質問の数々に、驚きつつも平然と答えたのだった。


マクロネ公爵は何を聞きたくて、このような質問をしているのか分からないが言われるがまま答えていく。






「ふむ……最後の質問だ。ユリシーズのどこに惹かれた?」 

 





「えー…………えっと」


「……おい」



先程とは全く違う種類の質問に口籠る。


ユリシーズのどこに惹かれたかと問われば、答えるのは難しい。

牢の中から助けてくれたから……というのは何か違う。



ユリシーズと結婚を決めた理由……。




ーーそれは





『俺と結婚したら、三食昼寝付きだ』





と、言われたからだった。


その条件に瞳を輝かせた。

ユリシーズが神に見えたのだ。



三食昼寝付き………まさしく天国ではないか。



そして追い討ちを掛けたのは、この言葉。





「あの牢と同じ生活を約束しよう」





(……結婚する以外の選択肢、ある?)





その条件に迷わず飛びついたのだ。


社交界も最低限でいい。

好きに暮らしていい。

ただ、刺繍は続けて欲しい。


逆に優良の好物件過ぎて怖くなってしまう。

しかしマクロネ公爵の前で、その条件を言う訳にはいかない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ