38.切り開く未来は(3)
じっと此方を見つめていたユリシーズは瞼を伏せた。
(上手くいったわ!ユリシーズ様は私の言葉に納得したのね!これで二人を引き剥がせるっ)
「心配は無用だ」
そして此方の言葉を否定するようにユリシーズはキッパリと言い切った。
それには涙もピタリと止まってしまう。
ユリシーズはアマリリスの肩に手を添えて、そっと引き寄せる。
「アマリリス……お前はどうなんだ」
考え込んでいたアマリリスは話を振られてハッとする。
ジリジリと感じるシャロンからの怒りが篭った視線とハーベイの真剣な表情が目に映る。
「………えっと」
しかしユリシーズと結婚するということは、また貴族として生きなければならないという事だ。
色々と面倒くさそうだな……と思っていた為、返事を濁していた。
(公爵家って、王家の次に偉い家よね……?)
マクロネ公爵家の養子であり、騎士団でもそれなりの地位を築いているユリシーズと結婚すれば、食いっぱぐれることはないだろうが……。
(それにしても、何故私と結婚を……?)
このまま平民になれば尻拭い人生から、おさらばできるだろうと思っていた。
再び貴族として色んな人間と顔を合わせなければいけないと思うと憂鬱でしかない。
そうなってくると、デメリットしか思い浮かばなくなってしまう。
(貴族社会では肩身が狭そうだ……よし、平民になろう)
このまま平民になっても、何も問題ないと思い頷いた。
(スカジャンでも作って売ろうかな……)
折角のイケメンからの結婚の申し込みだったが、やはり気持ちは進まない。
どうやってユリシーズを傷つけないないように断ろうかとウンウンと唸っていた時だった。
ユリシーズがそっと此方に耳打ちする。
「ーーー!!?」
その言葉を聞いたアマリリスの瞳が、これ以上ないくらいに輝きを増していく。
「そ、それは本当ですか…ッ!?」
「最低限のことをしてもらうが、それ以外は自由にしていて構わない」
「最低限……?」
「アマリリスならば何も問題はない」
「???」
「それに………」
ユリシーズは再び耳元でポツリと呟いた。
ぶんぶんと首が千切れそうなほどに縦に振ったアマリリスは興奮気味に口を開いた。
「是非ッ!!ユリシーズ様と結婚したく存じます!!!」
鼻息荒く結婚したいと言うと……。
「………ふっ」
ユリシーズはアマリリスの必死な様子を見て、声を漏らして笑っている。
アマリリスは嬉しそうに条件を飲んだ。
それには吃驚して目を見開いた。
アマリリスはユリシーズの笑顔は見慣れているのか反応を示さない。
何故、此方が驚いているのか分からないようだった。
(ユリシーズ様がアマリリスに笑顔を向けたというの……!?私にではなく、アマリリスに!?私だって、まだユリシーズの笑顔を今まで一度も見た事がなかったのに…!)
その後もアマリリスとユリシーズは此方を気にすることなく親しげに話している。
ハーベイは柔らかく笑うアマリリスを見て、悲しげに眉を顰めている。
そして何かを考え込んでいて口を出す様子はない。
(この役立たずッ…!私がこれだけ言ってるのに使えない男ね!アマリリスがユリシーズ様と結婚するのを許すつもり!?)
死ぬ筈だったアマリリスが生きており、真犯人であるルーシベルタがこんなにも早く牢に入れられた。
そして未来を何も知らない筈のアマリリスに、ユリシーズが結婚を申し込んだ。
(私ではなく、アマリリスに……こんなの、許されるわけないでしょう!?)
アマリリスが輝かしい未来を壊していく。
(私が手に入れるはずのユリシーズ様を奪おうだなんて……絶対に許さないんだから)




