36.切り開く未来は(1)
「は……?」
「………え?」
「……………ふぁ!!?」
上からハーベイ、シャロン、アマリリスである。
気の所為でなければ、今……ユリシーズはアマリリスに結婚を申し込まなかっただろうか。
全員がユリシーズの言葉に耳を疑っていた。
「ユリシーズ、何故……」
ハーベイが困惑してユリシーズに問いかける。
ユリシーズは、ゆっくりと立ち上がると此方を見ながら椅子に座るように促す。
そしてハーベイの問いに静かに答えた。
「父上にそろそろ婚約者を作れと言われていたので、丁度いい機会だと思いました」
「それにしても、突然……」
「私がアマリリスに結婚を申し込めば、アマリリスは平民になる必要はありません」
いつもと変わらず淡々と言うユリシーズを見て、三人はポカンとしていた。
「それにアマリリスは以前と変わらない生活を歩めます」
「ユリシーズ………君は」
ハーベイは目を見開きながらユリシーズを見ていた。
しかし、その提案に一番の焦りを見せていたのはシャロンであった。
「ーーー認めませんからッ!!」
シンと静まり返った部屋にシャロンの大声が響く。
「……シャロン、どうしたんだ。そんな大声を出して…」
「いえ……あの!ビックリしてしまって…!で、でもユリシーズ様がそこまで御自分を犠牲になさらなくともいいと思いますッ」
「……」
その言葉にユリシーズが黙り込む。
それに気を良くしたシャロンの口角が少しだけ上がる。
「あの……ユリシーズ様ッ!」
そして勝手に進んでいく話を止めるために声を上げた。
それに先程、ハーベイの顔を見たくないと言ったばかりだ。
再び貴族になれば嫌でも顔を合わせることになる。
「結婚とは……」
「そのままの意味だ」
「けれど、ユリシーズ様に迷惑を掛けるわけには…」
そう言った瞬間、待ってましたと言わんばかりに前のめりになりながらシャロンが会話に食い込んでくる。
「そうです!!アマリリス様は悪女と呼ばれて、つい先日まで牢に入っていた罪人ですよ!?それに私を執念深く虐げたのですっ!!ユリシーズ様も知ってるでしょう?」
突然、本人がいるにも関わらずに罵りはじめた。
以前のアマリリスも分かっていたようだが、シャロンは中々に良い性格をしているようだ。
会話から垣間見える本性…。
(ハーベイよりも関わりたくない……絶対に)
「シャロン……もうアマリリスは」
「でも今だってハーベイ様を傷付けたんですよ?やっぱり悪女なんですよ!!!」
「違う!それは僕がもっとアマリリスと向き合っていたら……」
「えっ……どうしたんですか?ハーベイ様はシャロンの味方だと思ってたのにぃ」
「……っ」
「やっぱり"シャロンを好きだ"って言葉……嘘だったんだ」
「違うッ!僕はシャロンを…ッ」
そう言ったハーベイは言葉を止めて、気不味そうに此方を見た。
ハーベイなりにアマリリスを気遣ってのことだろうが"今更"である。
(友人なんてやっぱり嘘ね…)
そんな様子を呆れた気持ちで見ていると、ユリシーズが突然、アマリリスの肩を引き寄せる。
驚いてユリシーズを見上げると、その顔には怒りが滲んでいる。
「…………お前は、何も知らないだろう?」
「いいえ!私は全てを知っていますからっ!」
「……」
「ユリシーズ様がそこまでしなくても、アマリリス様なら一人で大丈夫ですよ!」
シャロンは特別な力を持っている。
それは未来予知という力だ。
普通ならば何かを言えば、言う通りにしなければと皆がシャロンに縋り付く。
(ふふっ、そうだわ……アマリリスと一緒に居ると不幸になるといえば、ユリシーズ様だって目を覚ますはずよ!)