34. 容疑が晴れても、その先は(5)
牢から出た後、ハーベイに呼び出された為、二人の前に座っていた。
「………アマリリス、本当にすまなかった」
「ア……アマリリス様、ごめんなさいっ」
神妙な面持ちでシャロンとハーベイが頭を下げている。
その様子を何の感情もないまま見ていた。
(以前のアマリリスなら、どんな反応をするのかな……)
難しいところではあるが、アマリリスの気持ちを代弁するのだとしたら、もっと怒るべきなのだろう。
ユリシーズから報告を受けた時、さして驚きもしなかったがリノヴェルタ侯爵家から除籍されたらしい。
とは言っても、今の自分にとってはどうでもいいことだった。
平民が平民になったところで生活に変わりはない。
王家から金は貰えるのだとしても先行きは不透明。
老後のことを考えたら、働く場所は必須である。
(いい求人があればいいんだけど……)
「アマリリス……僕は君に苦手意識を持っていた。君の事情を理解しようとしなかった」
「……構いません。殿下のお気持ちがわたくしにないのは分かっておりました」
「…………本当に、申し訳なかった」
もう平民になったアマリリスに何度も頭を下げるハーベイ。
やはり罪悪感を覚えているのだろう。
ユリシーズから言われた時に、あえて謝罪はどちらでもいいと言ったのだ。
ハーベイの性格上、此方が何を言っても自分の罪悪感を少しでも和らげる為に謝罪をしてくることは分かっていた。
以前のアマリリスの気持ちは、今となっては確認することは出来ないが、普通に考えて苛立たしいことには変わらない。
(アマリリスの気持ちが少しでも報われるように…)
ここで許せばイメージ回復にはいいだろうが、今更ハーベイの好感度など気にする必要もない。
今から平民になるのなら尚更だ。
「以前の君ならば、責任を取って娶ってくださいと言いそうなものだが……本当にいいのか?」
確かにハーベイの言う通り、以前のアマリリスならば「責任を取れ」と迫りそうではあるが、ハーベイとシャロンがお互いに想い合って結ばれるのであれば、別にそれで構わないと思っていた。
今はハーベイと再び婚約したいとは微塵も思わないからだ。
この場では何を言ってもいいとハーベイに言われていた為、静かに口を開いた。
「あの……本当に何を言っても大丈夫でしょうか?」
「え……?ああ、勿論だ」
「わたくし、再び婚約を強請ったりは致しませんわ……御安心下さいませ」
「あ、あぁ……」
その言葉に、どこか安心するような表情を見せたハーベイに直ぐに爆弾を投下する。
「それに……婚約者が居るのに他の女に現を抜かす男なんて嫌ですもの」
「!!」
「そんなクソ野郎とまた婚約なんて、こっちから願い下げですわ……また浮気されるのがオチですもの」
「「「……」」」
"アマリリス"の気持ちを込めて吐き捨てるように言った。
言っていいと言われたら、遠慮なく言うしかない。
ハーベイは今までにない程に呆然としている。
好意を向けられる事はあっても、こうして人に拒絶されたことはないのだろう。
酷く落ち込んでいるように見えたが、これが此方の気持ちなのだから仕方ない。
ユリシーズはさすがにハーベイを庇うべきか迷っていた。
グサグサと突き刺さる言葉のナイフはとどまる事を知らない。
「それにハーベイ殿下を見ていると胸焼けのような、腹の中がグラグラと煮え立つような感覚になるのです……あんなに慕っていたのに不思議ですわね」
「……ッ」
「出来れば、二度と顔は見たくありませんわ」
しかしリノヴェルタ侯爵家から籍を抜かれた為、もう貴族ではない。
ハーベイの顔を見たくないという願いは自然と叶うだろう。




