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32. 容疑が晴れても、その先は(3)



どうやらアマリリスにとって、牢屋での生活は快適だったようだ。

どんよりとしたアマリリスを見ながら口を開いた。



「ハーベイ殿下から伝言だ……これからどうしたいか、だそうだ。あとは謝罪の場を設けるから、その時に説明するそうだ」


「謝罪……」



アマリリスは黙り込んだままだった。

そしてふと目が合うとアマリリスは困ったようにヘラリと笑った。



「わたくし、これからどうすればいいのでしょうね……」



その表情を見て、考えていた。

コルセットの締め付けもないせいか顔色もよい。

ララカと料理人達のお陰で、アマリリスの体型は上手い具合に保たれていた。


何故か雰囲気は柔らかくなり、以前とは真逆で誰にでも友好的で礼儀正しい。

かと思いきやオマリと筋肉を鍛え始めるなど理解出来ないような謎に満ちた行動を取って面白い。


そしてハッキリとした意思を持ち、女性とは思えないような度胸を持っている。


常にニコニコとしており、温かみのある話し方をしているが、偶に浮かべる憂いを帯びた表情は儚さを感じさせて、庇護欲を掻き立てる。


そして驚くべきは、厚化粧を外した後のアマリリスが持つ本来の美しさだ。

それには目を丸くした。


そんなアマリリスが、まるで捨てられた子犬のような目で此方を見ている。



「……」


「ユリシーズ様……?」



(俺はアマリリス・リノヴェルタが……気になっている)


それは紛れもない事実であった。


不思議そうに此方を見るアマリリスに心を動かされていた。

ここ数ヶ月、今のアマリリスと過ごす時間が居心地がいいと感じていた。

そして、今までにない程に惹かれていると……。



「わたくしは……」


「……」





「出来ればどこかで働けたら幸せですが、それは可能なのでしょうか?」





「は………?」


「………え?」



金色の目を見開いていると、それを見て首を傾げるアマリリス。

暫くの沈黙の末、アマリリスに問いかけた。



「今……働くと言ったのか?」


「はい、言いましたが……」


「働く……?お前が?」


「おかしいですか?けど、家を追い出された以上、働かなければ生活出来ませんから」



アマリリスが迷いなく「働く」と言ったことに驚きを隠せなかった。

しかしアマリリスは冗談を言っている様子はない。



「やはり……一度牢屋に入ったら此方の世界でも就職の幅は狭まるのでしょうか?」


「就職、だと……?」


「わたくしが働ける場所のことですわ。こんなわたくしが働いてもいいという場所は、それ程多くはないでしょうね……」


「そう……かもしれないな」


「やっぱり……」



アマリリスはガックリと肩を落とした。


しかしアマリリスの言うことは的を射ていた。

たとえ冤罪だとしても、今のアマリリスを雇ったり、娶りたい貴族などいないだろう。


アマリリスが投獄されていたことや、シャロンに大怪我をさせた事は社交界に大きく広がってしまった。


年老いた資産家か、女好きの貴族の愛人となるか。

もしくは修道院、それか平民として生活する。


アマリリスにとって、どれも良い選択肢ではないだろう。


王家から賠償金は多少なりとも出ている筈だが、それをもらったからといって、名誉は回復する訳でも遊んで暮らしていける訳でもない。


(……嫌な奴に嫁ぐくらいならば、平民になり働いた方がマシという訳か)



「とりあえずは、この牢を出る準備をしろ……」


「………はぁい」



名残惜しそうなアマリリスは、牢屋にある大量の荷物を持って立ち上がる。


そして牢から出ると、丁度アマリリスの弟であるルーシベルタとすれ違う。

ルーシベルタは地下牢に行く事に対して、激しく抵抗しているようだった。



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