27.全て私の思いのまま(2)
けれど、それは今明かされるべき事ではない。
階段から突き落としたのは、アマリリスの弟……ルーシベルタだ。
ルーシベルタはアマリリスを嫌い、そして邪魔に思っていた。
そしてハーベイと上手くいっていないという噂を聞きつけたルーシベルタは、アマリリスを貶めるために動いたのだ。
ルーシベルタはアマリリスのドレスで変装して、ウィッグを被り、階段から突き落とした。
そもそもアマリリスのドレスを用意できるのは、同じ家に住むルーシベルタしか居ないだろう。
目撃者はルーシベルタが金を積んで言わせたでっち上げだ。
「アマリリスが突き落としたのを見た」と証言してもらえばいい。
つまりルーシベルタが突き落とした目撃者はいない。
全ては偽物なのだ。
アマリリスの無罪が明かされるのは、アマリリスが死んだ後だ。
全て分かっていた上でルーシベルタに突き落とされたのだ。
そして犯人がルーシベルタだと知っていたが黙っていた。
それは何故か……。
ルーシベルタ同様、アマリリスが邪魔だったからだ。
アマリリスが消えれば都合が良かった。
スペンサーが手に入らないと分かった以上、上り詰める為には第二王子であるハーベイをアマリリスから奪い取らなければならない。
アマリリスに注意される度にハーベイの元に行って泣きついた。
ハーベイはアマリリスのように強く自立した女性よりも、弱く守ってあげたいと思えるような女の子が好きだと早々に気付いた為、徹底的にハーベイが好きそうな女性を演じた。
アマリリスは男の扱いは上手いようだが、人間関係を築くのが下手だった。
アマリリスの小さな人助けも些細な気遣いも、全て揉み消していった。
そして城の人間がアマリリスを過剰に嫌っている訳……。
それは裏で動いていたからだ。
そしてアマリリスに言われたことや、やられたことを何倍も過剰に周囲に言いふらせば良い。
アマリリスに嫉妬や良い感情を持たない侍女達にそっと囁いた。
「……アマリリス様が貴女達の悪口を言っていたわ」
「アマリリス様に逆らう者はハーベイ様に言ってクビにしてもらうって…」
そして「何があっても貴女達を守るからね?」そう言って味方を増やしていく。
それだけでアマリリスの評判は地に落ちていく。
シャロンは"善"で、アマリリスは"悪"なのだ。
そしてこの国に必要とされている"シャロン"とは違い、アマリリスは嫌われ者。
どちらがハーベイの婚約者に相応しいかなんて言うまでもない。
全てが思い通りだった。
アマリリスのような周囲の恨みを買いながらハーベイの婚約者に上り詰めた毒花とは違う。
可憐で純粋な少女を演じることで、周囲の信頼を勝ち取ってきたのだ。
それに自分で手を下さなくとも、アマリリスの弟であるルーシベルタが、勝手にアマリリスを貶めてくれる。
ーーそしてルーシベルタに階段から突き落とされた。
怪我はしたが、あっさりとアマリリスは失墜。
家族から嫌われているアマリリス。
そして下準備はバッチリだった為、味方もいない。
あとはアマリリスが牢に入り衰弱して死んでいくだけ………そう思っていたのに。
「い、いきなりどうしたんですか……?ハーベイ様だって、アマリリス様がやったに違いないって言っていたではありませんか」
「………そうだね。だけど僕は間違えたくないんだ」
ハーベイはそう言って瞼を伏せた。
昨日まではアマリリスが犯人だと信じて疑っていなかった。
「反省していなければ処刑も厭わない」
そう言っていたハーベイがこんな事を言うなんて信じられない気持ちだった。
 




