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25.真実はどこにある?(8)



やはりスカジャン刺繍は刺繍糸の減りも早い。


ユリシーズはアマリリスから紙とペンを借りると、アマリリスから言われた刺繍糸の色を書き込んでいく。



「……他に入用なものはあるか?」


「ありませんわ」


「承知した」



アマリリスは陽気に手を振って二人を送り出す。

軽く頭を下げてから、その場を去った。





共に黙ったまま地下の階段を上がっていった。

ドアを開くと、日の光に目が眩んだ。


ハーベイを部屋に送り届ける間、何も言わずに黙り込んでいた。

オマリの言葉を咎められると思いきや、それもないようだ。


しかしオマリの言葉は予想外であったが的を射ていた。

何も知らないとはいえ、まさか本人の前で直接言ってしまうとは……。



部屋に到着して「着替えてくる」と言ったハーベイに静かに頷いた。


ハーベイが着替えるのを待つ間、ポケットからアマリリスが刺繍したハンカチを取り出して見つめていた。


(この迫力と素晴らしい色使い……虎は今にも此方に飛び出してきそうではないか……!薄桃色の花は何という花だろうか……見たことがない。今度アマリリス・リノヴェルタに聞いてみるか。満月は白い雲に隠れているが虎と花と共にあると何とも神々しいな。紺色の布地に良く映えている。それになんといってもバランスの取れた配置…………奴は刺繍の神なのか?)



「ユリシーズ……!」


「……」


「ーーーユリシーズッ!」


「……!?」


「先程から何度も呼んでいたんだが……そのハンカチに夢中のようだな」


「申し訳ありません………なんでしょうか」



ハッとして顔を上げるとそこには既に着替え終わったハーベイの姿があった。


ハーベイは騎士団の服を返すと小さく笑みを溢した。

そして直ぐに真剣な表情に戻ったハーベイを見て、ハンカチを丁寧に畳んでからポケットに戻した。



「………ユリシーズ」


「はい」


「もう一度、目撃者から詳しい話を聞き出して欲しい……お願いできるか?」


「!!」


「アマリリスの言った事が、僕には嘘だと思えなかった……」


「ハーベイ殿下……それは」



ハーベイの言葉に驚いていた。

やはり今のアマリリスを見て考え直したようだ。



「確かに君の言う通り、今のアマリリスは何かが違うようだ……」


「……」


「今日、今まで見ようとしていなかったアマリリスの本当の姿を見た気がした。それに彼女の気持ちも理解する事が出来た……」


「……」


「それに僕は、気付いてしまったんだ。噂通りだとアマリリスを悪女だと勝手に決めつけて接していた事に……!今までアマリリスと真剣に向き合ったことはなかった。何も……見えていなかった」



ハーベイはグッと手のひらを握り込んだ。

唇を噛んで悔しそうにしているハーベイを見ながら、只黙って話を聞いていた。



「僕は………もう一度この件を考えてみる」


「…!!」


「一緒に来てくれ、ユリシーズ」


「かしこまりました」


「……それから、君の部下には申し訳ない事をした」


「!!」


「彼…オマリの言う通りだ。雷に打たれたような気分だったよ」


「……」


「………ユリシーズ、君から見ても僕は変わったように見えたかい?」



ハーベイの言葉に目を見開いた。

そして、ゆっくりと頷いた。



「……………はい」


「そうか……」



ハーベイはそう言うと静かに歩き出した。

小さく頭を下げてからハーベイの後に続いた。


しかし安心している自分が居た。

やはりハーベイをアマリリスの元へ連れて行ったことは正解だったようだ。


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