24.真実はどこにある?(7)
「……」
「それにしても隊長……!新しい騎士が入ってくるなら一言教えて下さいよ」
「…ああ、すまない」
「配属は?」
「……まだ詳細は決まっていない」
「珍しいですね」
「まぁな……」
新人が入ってくる時には、いつも紹介がある。
それに配属も決まっていないのにユリシーズと行動しているのも不思議なのだろう。
「まぁ、いいか!もし俺と隊長の元に来たら宜しくな」
オマリに肩をバシバシと叩かれる。
ユリシーズはオマリを止めようと手を伸ばそうとするが、ここで庇えば正体がバレてしまうかもしれない。
そんな時、力が弱まるのと同時にポツリとオマリが呟いた。
「……ハーベイ殿下は最近、例の未来予知できる御令嬢に夢中でさ」
「………!!」
「以前のハーベイ殿下と全然違うんだ……全部あの御令嬢の言うことを聞いて、俺の事もアマリリス様のことだってそうだ……一方的に決めつけるなんて、以前のハーベイ殿下なら絶対にしなかった」
「……オマリ、よせ」
「隊長だってそうでしょう!?隊長はハーベイ殿下と幼馴染なのに………」
「此処ですべき話ではない。やめろ、オマリ」
「はい……すみません」
その言葉を聞いて顔を伏せた。
妙に焦っているユリシーズと落ち込んでいるオマリを見たアマリリスは、空気を変えるようにパンパンと手を叩いた。
「お話はそのくらいに致しましょう?それに、折角のお料理が冷めてしまいますわ!」
「………はい」
「新しく入った騎士様もどうぞ」
「……あ、あぁ」
声をかけられて顔を上げるとアマリリスは牢の中から手を伸ばして、器用に料理を皿に盛り付けていく。
そして皿を此方に渡してからニコリと微笑んだ。
暫くアマリリスと一緒に過ごした後に頃合いを見計らい、ユリシーズに合図を出す。
ユリシーズは僅かに頷くと、皿を置いてから口を開いた。
「……そろそろ失礼する。まだ手続きが残っているんだ」
その言葉に合わせて空っぽになった皿を置いた。
ユリシーズが連れて地下牢から去ろうとアマリリスに背を向けた時だった。
「ーーユリシーズ様、お待ち下さいませ!」
「…?」
アマリリスの声にユリシーズは振り返る。
ベッド付近から何かを取り出すと、再び格子の隙間から手を伸ばす。
「ユリシーズ様のリクエスト通り、ハンカチに刺繍してみました!ミニサイズなので少々、迫力は落ちてしまいますがどうぞ」
「!!!」
ユリシーズはアマリリスから受け取った紺色のハンカチを広げた。
そこにはこちらを威嚇する虎と、見たことのない薄桃色の花。
白い雲に隠れるように満月が浮かんでいる刺繍が施されていた。
あまりの迫力と見たことのない絵柄にギョッとして目を見開いた。
「どうでしょう?」
「……」
「気に入って下さると嬉しいのですが……」
「………っ、素晴らしい」
パァアアとユリシーズの顔の周りにキラキラと眩い光が見えた。
何度も違う角度から見たり、柄を凝視したりと相当気に入っているようだ。
アマリリスはユリシーズの表情を見て、安心したように息を吐きだした。
「ハンカチに刺繍するのは初めてだったので、どのくらいの加減で仕上げればいいか分からずに心配だったので良かったですわ……!」
「恩に着る……アマリリス・リノヴェルタ」
ユリシーズは機嫌が良さそうに、いそいそとハンカチをポケットに仕舞い込む。
するとアマリリスは困ったように呟いた。
「ユリシーズ様……最近、刺繍糸が足りなく「すぐに用意しよう……!!」
「まぁ、助かりますわ」
ユリシーズは間髪入れずにアマリリスのお願いを了承した。




