22.真実はどこにある?(5)
「今日は自信作を持ってきたんです!是非食べてください」
「こんなに沢山……!」
「気合が入り過ぎて、作り過ぎてしまって…!」
「二人の料理はとても美味しいから、また太ってしまうわね」
「そしたら俺と筋トレしましょう?」
「また服を縫い直しますので安心してください!それにアマリリス様はもう少しふくよかでも良いくらいです」
「うふふ、オマリもララカもありがとう……余らせたら勿体ないわ!折角だから皆で一緒に頂きましょう」
呆然としながらアマリリス達の様子を見ていた。
ここは本当に罪人が入る牢だろうか。
まるで家族が団欒しているような温かい雰囲気に立ち尽くす事しか出来なかった。
「この状況は…」とユリシーズに小声で問いかけると、ユリシーズは耳元で「殿下が私に任せると仰るので」と言って平然としている。
「ユリシーズ様も、其方の騎士様もご一緒に如何ですか?」
アマリリスの声にユリシーズは慣れた様子で返事を返す。
そしてアマリリスに牢の中で手招きされて戸惑っていた。
ユリシーズの後に続いて恐る恐るアマリリスの側へと向かう。
「新人の方ですか?」
「………そう、です」
「はじめまして。わたくしはアマリリス……こんなところから申し訳ございません。ユリシーズ様は無愛想ですが、心根はとても優しく……」
「……おい」
「常に怒っているように見えますが、誤解せずにいてあげて下さいね。あと女顔と体の線が細いことを気にしているので、あまり突っ込まないであげて下さいませ」
「何故、お前が俺の紹介をするんだ」
「あら、つい……!」
地下には笑い声が響き渡る。
(今……アマリリスがユリシーズを褒めたのか!?)
ユリシーズがそこまで言う理由が理解できた。
(まるで……別人じゃないか!)
此方から見たユリシーズとアマリリスはお世辞にも仲が良いとは言えなかった。
目も合わせずに最低限の会話しかない。
必要以上関わらないようにしていた……そんな印象だったのに、今ではすっかりユリシーズと打ち解けている。
(アマリリスは……何を考えている?ユリシーズを籠絡して味方にするつもりなのだろうか。しかし料理人や侍女、騎士と仲良くするメリットが見当たらない)
いくら考えても納得する答えは見つからなかった。
楽しそうな輪を只々見つめていた。
暫く経ってからハッとした後に、牢の中にいるアマリリスに質問を投げかける。
アマリリスは今自分の事を新米騎士だと思っている。
ならば、本心であり嘘偽りのない答えを聞けるだろう。
「………アマリリス様は、シャロン様を階段から突き落としたと聞きました」
「「「!!」」」
「それは、事実なのですか……?」
先程まで笑顔で溢れていた地下牢は静まり返っていた。
アマリリスは此方を不思議そうに見た後、静かに首を振った。
「いいえ………わたくしの記憶では、そのような事をした覚えはありません」
アマリリスは困ったように微笑んだ。
「けれど、目撃者が……っ!」
「そうですね………きっと、わたくしは誰かに嵌められたのでしょう」
「ーーっ!?」
「わたくしにはアリバイもありましたが、誰も耳を傾けてくれませんでした………その時は、とても悲しかったと記憶しております。わたくしの味方は誰も居ないと思い知ったのですから」
アマリリスは自分の事を話しているはずなのに、まるで他人事のような言い方をしていた。
それが引っ掛かるのと同時に、ひどく心を抉った。
「その方は今、邪魔者がいなくなったと喜んでいる事でしょう。わたくしは………家に居場所はなく、誰にも愛されず、ここで絶望していました」




