02.はじまりの物語(2)
両親の気を引く方法が分かってしまったからだ。
我儘を言うと好意ではなくても、目を合わせてくれる…"アマリリス"だけを視界に入れてくれる。
それに気づいてしまえば、あとは繰り返していくだけだった。
「お父様とお母様は、ルーシベルタばかり可愛がって、わたくしを無視するの……」
何気なく放った一言は、瞬く間に広がった。
そしてこれ以上、悪い噂が広がらないようにと、リノヴェルタ侯爵と夫人は面白いほどにアマリリスの言う事を聞くようになった。
そうやって処世術を身につけていった。
ルーシベルタが此方にまとわりついてくるようになった。
しかし嫉妬からルーシベルタの存在を無視していた。
ルーシベルタを自分の中で無いものしていたかったのかもしれない。
無垢な瞳で名前を呼ばれると蹴り飛ばしたくなった。
細い首に手を掛けて、折ってしまいたくなった。
(お前さえいなければ、まだマシだった)
そんな気持ちがあったからだろう。
次第に言う事を聞かなくなっていくアマリリスの扱いにも慣れたのか、再び邪険にするようになっていったリノヴェルタ侯爵達は、あいも変わらず二人はルーシベルタを溺愛していた。
ルーシベルタもそんな両親の態度を見て、アマリリスを馬鹿にするようになった。
裏で何を言っているのかは知らないが、少しだけ耳に入ってきた言葉は「ルーシベルタはあんな性格の悪い女に引っ掛からないでね」「あの子さえ居なければ…」そんな声だ。
アマリリスはそんな"家族"が大嫌いだった。
(……いっその事、捨ててくれればいいのに)
社交界に出ると持ち前の美貌と、皮肉にも厳しい教育のお陰で、次々と男性を虜にしていった。
(アイツらよりも上の立場の婚約者を捕まえて、あの家をぶち壊して追い込んでやる)
その一心だけでアマリリスは動いていた。
邪魔する者は、誰であろうとも容赦しなかった。
自分の親と共にリノヴェルタ侯爵家に乗り込んでくる御令嬢もいた。
そんな時はアマリリスに惚れ込んでいる令息に甘えれば、すぐに解決出来た。
誰かの婚約者だろうが関係なかった。
婚約者を返せと騒ぎ立てる令嬢に「貴女の魅力が足りないのよ」そう言えば泣いて帰っていく。
用が無くなった令息はすぐに捨てた。
アマリリスは別に結婚したいと言った訳ではない。
それなのに勝手に勘違いしてはアマリリスに迫ってくる。
「もう貴方に用はないわ」怒り狂う令息をまた新たな令息を捕まえることで乗り越えていく。
いつの間にか社交界でこう呼ばれるようになった。
"悪女リリス" "強欲なリリス" "夜の悪魔"
そんな不名誉な名前すら武器に変えて、アマリリスは舞踏会、パーティー、お茶会で輝きを放った。
そんなアマリリスの美しさは、国王の周囲にいる宰相や大臣の目を惹いた。
そしてアマリリスと第二王子との婚約を提案した。
しかしアマリリスがリノヴェルタ侯爵家の養子である事や孤児院の出であることから反対する者もいた。
この国の第二王子であるハーベイは誠実で真面目、周囲からの評判も良かった。
アマリリスのように男を侍らせて、社交界の華と呼ばれる派手な令嬢に苦手意識を持っていることは分かっていた。
ハーベイは容姿にも靡かずに、色仕掛けにも反応することはない。
そんなハーベイは面白みのない男だと思っていた。
けれど別にハーベイに気に入られる必要はない。
権力がある者にアマリリスを推してもらえばそれでいいのだ。
(これでアイツらに復讐できる……!)
念願叶って、やっとの思いでハーベイと婚約する事となった。