19.真実はどこにある?(2)
勿論、ハーベイに目を覚ましてもらいたい思いもあった。
しかし此方の言いたいことは上手く伝わらなかったようだ。
シャロンを庇うように迷うことなく声を上げたハーベイ。
恋は人を変えるというが、ハーベイは固く真面目な分、顕著にそれが現れているような気がした。
するとシャロンは悲しげに声を震わせてから口元を押さえた。
「あのっ、ごめんなさい……私ったらユリシーズ様に図々しいことを」
「シャロン……」
「この間の事が、まだ怖くて……今でもアマリリス様が私の夢に出てくるんですっ」
シャロンは「私、怖くて……つい」と大きな瞳からポロポロと涙を溢す。
シャロンのこういったやり方が好きではなかった。
シャロンに好意があれば愛らしく見えるのだろうが、此方からしてみれば寒々しい限りだ。
護衛として側にいる為、アマリリスとシャロン、ハーベイの三人の関係を見ていた。
ユリシーズから見ても、ハーベイとシャロンは互いに想い合っているように見えた。
身近で見ていたからこそアマリリスの焦りやシャロンが邪魔だという気持ち、苛立ちは分かっていた。
だが、アマリリスがシャロンにこうも分かりやすい手口を使うだろうか。
ハーベイに嫌われると分かっているのに…。
何度かアマリリスに真相を尋ねてみたことがあった。
「何故、あんな事をしたんだ……?」
すると、決まってアマリリスはこう言うのだ。
「わたくしは……シャロン様を突き落としておりませんわ」
アマリリスは声を荒らげることもなく、何かを訴えかける訳でもない。
只、淡々に言うだけだった。
今のアマリリスを見ていると、どちらが真実か分からなくなる。
(嘘を……言っているようには思えなかった)
ハーベイはシャロンの手を握りながら宥めている。
そんなシャロンを冷めた目で見ていた。
「シャロンが落ち着いたら、事の詳細や謝罪があるか確認しようと思っていたんだが……」
「ハーベイ様、私……絶対に許せませんっ」
「……シャロン」
「だって、すごく痛かったから…!」
「そうだろうね……やはり反省がないようならばシャロンの言う通り、処刑するしかあるまい」
ハーベイの言葉に目を見開いた。
シャロンは嬉しそうに笑顔を浮かべながら、ハーベイの腕に体を擦り寄せている。
(………この女は、人が死ぬのを笑うのか)
思い出すのはニコニコと笑うアマリリスの顔…。
「………ハーベイ殿下」
「どうした…?ユリシーズ」
「…アマリリス・リノウェルダは先程も話したように、大きく性格が変わっております」
「……!」
「一度、会ってみてはいかがでしょうか?」
「ああ、シャロンの怪我が良くなったら……」
「今、見るべきだと思うのです」
ハーベイのやる事に意見するのは珍しい事だった。
そしてアマリリスを庇うような発言に驚いているようだった。
その言葉を聞いたシャロンからスッ…と笑顔が消える。
「ふむ………ユリシーズがそこまで言うのなら、一度様子を見てみるのもいいかもしれない」
「……ハーベイ様!?」
「大丈夫だよ、シャロン……安心してくれ」
「え……?」
「僕が一人で行こう」
「そ、それなら……!私も行きます」
「シャロンは待っていてくれ…これ以上、君に怖い思いをさせたくないんだ」
「……っ、でも」
「それに怪我もまだ治っていないのだろう?」
「私……もう大丈夫ですからっ!」
明らかにシャロンは焦っているように見えた。