18.真実はどこにある?(1)
「は………?」
「ほ、本当にアマリリス様が……?」
「報告は以上となります」
ハーベイに呼び出された為、アマリリスの牢での様子をありのままに話していた。
想像通り「一体何の話をしているんだ?」と言いたげなハーベイとシャロンの顔。
恐らくハーベイはアマリリスが反省しているかどうか、周りにどう迷惑を掛けたのかを確認しようと思ったのだろう。
シャロンはポカンと口を開けて目を丸くしている。
二人は今のアマリリスの様子をまったく知らない。
牢に入ってから別人のようなアマリリスを……。
「ユリシーズ……一体、誰の話をしているんだい?」
「アマリリス・リノヴェルタの話です」
「本当にあのアマリリスが…?」
「はい……アマリリス・リノヴェルタは以前とは別人です」
「だが……そんなっ!アマリリスはシャロンを階段から突き落とした悪女ではないのか!?」
「………ハーベイ様」
シャロンが瞳を潤ませて不安そうにハーベイを見つめている。
「大丈夫だよ、シャロン…」
「ありがとうございます……!ハーベイ様が居て下されば安心です」
「……」
ハーベイはシャロンを安心させるように肩を抱いた。
そんな二人の様子をじっと見つめていた。
シャロン・メルメダ
メルメダ伯爵の後妻の娘……。
その愛らしい容姿と柔らかい笑顔に癒される令息も多いと聞いた。
アマリリスが薔薇のように強烈に相手を惹きつけるのだとするならば、シャロンは百合のように甘い匂いを放って手に取るものを虜にする。
今もこうして「ハーベイ殿下の友人」だと言って、当たり前のように隣にいる。
しかし最近、ある変化と違和感に気付いていた。
シャロンから、ねっとりと絡みつくような視線を感じる事があるのだ。
それに何の意図があるのか未だ分からないが、こうしてハーベイに甘えながらも、此方にも媚を売るような仕草を見せる。
シャロンは強かで底の知れぬ女に思えた。
「ユリシーズ様……私の事、近くで守っていて下さいね」
「…………どういう意味でしょうか」
「だって、以前の騎士は全然役に立たなかったんですもの……!だから、ユリシーズ様があの騎士の代わりに私を守ってくれるのでしょう?」
「……」
「ユリシーズ様は特別ですから…」
シャロンは当然と言わんばかりにオマリを役立たずと言い放つ。
此方からしてみれば、オマリが責められる理由など一つもない。
オマリはハーベイの近衛騎士であってシャロンを守る義務などない。
(何を履き違えているんだ……この女は)
それなのにシャロンがオマリのせいだと煩く騒いだせいで、オマリは巻き込まれたのだ。
鋭い視線をシャロンに向けた。
「私はハーベイ殿下の騎士です……婚約者でもない貴女を守る義理はありません」
「ユリシーズ!」
「事実です」
「だが、シャロンは我が国でも大切な…!」
「ハーベイ殿下の命令ならば従いますが、如何なさいますか?ハーベイ殿下の御友人も護衛対象と致しますか?」
「ユリシーズ……君にそういう事はさせたくない。分かるだろう?」
困ったようにハーベイは眉を顰めた。
シャロンはハーベイの婚約者ではない……立場的には友人だ。
確かに国の大切な役割を担いつつあるシャロンだが、まだ正式な命をもらってない以上"ハーベイの友人"として扱うだろう。
ハーベイだけでなく"ハーベイの友人"も守れというのなら、今よりももっと広い範囲で目を光らせなければならない。
敢えて嫌味を交えて言ったのだ。




