表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/94

14. 牢屋こそ至福(1)




(あれ……もしかして寝てた?)


静かな地下牢は昼寝にはもってこいである。


目を覚ますとシーツがかかっていることに気付く。

それにトレイに置かれた食事は、ユリシーズに取り上げられた食事より確かにマトモであった。


ゆっくりと起き上がる。

顔の横に置いてある騎士団のパンツを履いてから、無理矢理ベルトで固定する。

そしてスプーンを持ち、恐らくユリシーズが用意してくれたであろうリゾットを口に運ぶ。



「んー……おいひい」



チーズとミルクのハーモニー。

欲を言えば、温かい食事を食べたかった。

しかしユリシーズは気を遣って起こさないようにしてくれたのだろう。


(良い人だったなぁ……ユリシーズ)


女性と間違われるほどに綺麗な顔。

藍色の長い髪を一つに束ねており、星のような金色の瞳と長い睫毛。

着痩せするタイプなのか体の線が細い。

そんな自分の見た目にコンプレックスを抱いているのだと記憶にもある。


しかし、大男ですら弾き飛ばすような素早い剣捌きに男らしい性格。

寡黙で何を考えているのか分からないミステリアスなユリシーズは、男性にも女性にもモテるのにどこか近寄りがたい。

部下からの信頼も厚く、公爵家の次男で好物件。


(ギャップ………)


冷静に見てみるとユリシーズは、とても人情深い人に見える。

どうやら困っている人を放っておけない性格のようだ。


(何故、アマリリスはユリシーズが嫌いだったのかしら)


皿を空っぽにしてから再びベッドに寝転がった。

天井を見ながら暫く考えていた。





(え…………?すごく幸せなんだけど、どうしよう)






こんなにゆっくりと食事をしたのは、いつ振りだろうか。

こんな風にベッドに寝転がってワクワクした気持ちになったのは何年振りだろうか。

起きる時間を気にしなくていいのは、なんて贅沢なのだろう。


常に鳴り続ける電話は此処には無い。

借金取りから追いかけられることも、搾取されることもない。



この時、思った。




ーーー牢屋こそ至福。




働かなくても食事が出てくる。

生活に必要最低限な設備もある。


嫌われているが、正直どうでもいい。



夢の中のアマリリスは食事を摂らずに衰弱していった。

誰にも助けを求めず、誰にも頼らずに、何も強請らなかった。

そして自分は何もしていないと頑なに罪を否定し続けた。


事実、アマリリスは罪を犯していない。


そもそもアマリリスの記憶に、シャロンを突き落とした記憶は存在しない。

しかし、アマリリスがやったという目撃者は複数存在する。


(……嵌められたのね、きっと)


いくら否定したところで信じてもらえない。

婚約者であるハーベイもアマリリスを信じてはくれなかった。

家族もアマリリスを邪険にしており、令嬢の友人は一人も居ない。

言うことを聞いてくれる令息は居ても、それは絶対的な味方ではない。


これからどうするべきか……身の振り方を考えなければ未来はない。


(難しいわ……)


ゴロリと寝返りを打つ。


こうしてアマリリスになる前には両親の借金の尻拭い。

この世界では何故かアマリリスになって、アマリリスが積み重ねてきたことの尻拭い。



(ああ………我が尻拭い人生よ)



寝る間も惜しんで、休みなく働いていた日々。

減らない借金と戦い続けて五年。

アマリリスになって牢屋でのんびりまったりした生活は神様からのご褒美だろうか。


ハーベイとシャロンが牢屋に謝罪を要求してくるまで、牢屋での生活を満喫しようと決めた為、思いきり伸びをした。


いつ死ぬか分からないなら、今を全力で楽しむしかないではないか。


(処刑って言われたら全力で抵抗しよう……うん、それが良いよね)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ