13.ユリシーズside(2)
緊急だと判断した為、絡んだドレスの紐を無理矢理引き千切った。
コルセットを外すと、アマリリスは此方に抱きつき「神様、ありがとう」と言ったのだ。
アマリリスの言葉にゾワリと鳥肌が立った。
どんな意図があったのかは分からないが媚びているように思えた。
(もしかして……)
このやり方でアマリリスはオマリに迫るつもりだったのだろうか。
黙ってアマリリスを見ていると、あろうことかアマリリスは「申し訳ありません」「視界が霞んで」「つい」と言ったのだ。
しかし、オマリを籠絡しようとしていると気づいてしまい、怒りからアマリリスを睨みつけた。
オマリを再びアマリリスの元へ行かせなくて良かったと心から思っていた。
そして誰も世話をしたがらない状況を伝えると、アマリリスは興味がなさそうに返事をしただけだった。
それからアマリリスの口から出てきた台詞は普段ならば絶対に言わないような言葉ばかりだった。
そして何を思ったのか「自分の事は自分でする」と言い出したのだ。
それにはさすがに驚きを隠せなかった。
あのアマリリスが自分のことを自分でするなど、信じられるはずがない。
アマリリスの行動を疑っていた。
今の自分に靡く者など居ないと冗談混じりに言ったと思いきや、「必要なものを持ってきてくれ」と頼んだのだ。
(一体、何を考えている……!?本気で自分でするつもりか…?)
アマリリスに言われたものを掻き集めて再び牢に戻ってくると、そこには涙を流しながら食事をする姿があった。
以前のアマリリスならば絶対に手をつけないであろう簡素な食事。
それに落としたパンを拾い「何も見なかったことにしてくれ」と言ったのだ。
(………何故こんな下らない嫌がらせを黙って受け入れる!?アマリリスは嫌がらせした者たちを庇うつもりなのか?)
今まで、アマリリスが手を付けなかった食事があった理由はもしかして……そう思ったからだ。
それに、明らかにパンが落ちた音ではなかった。
まさかと思い、食事内容を確認してみると、それはユリシーズが思う以上に最悪なものだった。
姑息なやり方に苛立ちを感じていた。
この魚は生臭さ故に本来ソテーなどにはせず、煮て臭みを消さなければならない。
野菜の切れ端や芯や皮は、生ゴミとして捨てる部分だ。
カチカチに乾燥したパンは何日放置されていたものだろうか。
すぐに食事を替えようと提案しても、何故か抵抗するアマリリス。
「まともな食事を持ってくる」と言うとアマリリスはやっとパンから手を離したのだった。
そしてアマリリスに頼まれていたものを渡そうとすると、アマリリスはニコニコと喜びながらお礼を言ったのだ。
それにアマリリスが公の場以外で「ユリシーズ様」と言ったことがあっただろうか。
(この女は本当に俺が知っているアマリリス・リノヴェルタなのか………?)
トレイを持ちながら、急いで厨房へと向かった。
アマリリスの食べかけの食事を持って厨房へ向かうと、青褪めている数人の侍女達と料理人達。
「どういうつもりか説明しろ」
「ひっ…!」
「……ッ」
「……次やったら、処すぞ」
厳しい顔をした此方の表情を見て察したのか、そそくさと逃げ出した侍女達。
料理人には新しい食事を作らせた。
同じ事があってはならないと、その様子をじっと見つめていた。
(毒を入れられないだけマシだったと考えるべきか…)
そして出来立ての食事を持って地下へと降りたが、アマリリスからの返事は無かった。
腹を下したのかと急いでアマリリスがいる牢を確認すると……。
そこにはシャツ一枚でベッドに寝そべるアマリリスの姿があった。
惜しげもなく晒される足にバッと顔を背けた。
(無用心な奴めッ!!)
アマリリスは露出の多いドレスを着る事が多いが、これほどの薄着で無防備な姿を見たことはなかった。
食事をテーブルに置いてから、牢の中に入り、アマリリスの足を隠すようにシーツを掛ける。
(何だ、こいつは……一体何を考えているんだ)
気持ちよさそうに寝息を立てるアマリリスからは以前のような刺々しさは微塵も感じない。
今のアマリリスは以前のアマリリスとは何かが違う。
それだけは理解できた。
(俺は……疲れているのか?)
溜息を吐いてから地下を出た。