11.絶望的な牢屋ライフ(7)
ユリシーズは他の皿に載っている料理も確認してから顔を歪ませた。
「………これを食べたのか?」
「えぇ…」
「今すぐそのパンを寄越せ」
「え………?何故ですか?」
首を傾げて問いかけた。
ユリシーズは抵抗されて苛々しているようだ。
鋭い視線はナイフのようだ。
それでもパンだけは離さない。
二人の間に沈黙が流れる。
「まともな食事を持ってくると言ってるんだ……」
「……!」
「さっさとその岩のようなパンを離せ」
「………はい」
まともな食事…その言葉に瞳を輝かせた。
これも十分マトモな食事だとは思うが、新しい食事を持ってきてくれるのなら嬉しい限りである。
「それと、コレがお前から頼まれていたものだ」
「わぁ!ありがとうございます、ユリシーズ様」
半ば奪うようにユリシーズから物資を受け取った。
着替えに、洗面器のような水を汲めるもの、そして石鹸。
タオルも沢山持ってきてくれたようだ。
ニコニコと笑顔でお礼を言うと、その表情を見たユリシーズは再び固まっている。
「……手早く着替えろよ」
「わかりましたわ」
「……」
「何か……?」
「いや。俺は………もう行く」
ユリシーズは食事が載ったトレイを持ち上げて、牢の鍵を閉めた。
これでやっと重たいドレスを脱いで、寛げると思うと嬉しくなってしまう。
最後まで奇怪そうに此方を見ながら地下室から出て行った。
ーーーバタンッ
ユリシーズの足音が無くなったことを確認してから手早くドレスを脱いでいく。
そしてタオルを濡らして自分の体を拭いていく。
どうやら着替えは男もののシャツとパンツ。
女性用ではないところを見ると、着替えを貸してくれるものは最後まで居なかったのだろう。
(すんごい嫌われてんな、アマリリス……)
しかし嫌われてようが世話をされなかろうが、自分で出来るので問題はない。
アマリリスのやってきた事は確かに褒められたものではないが、過去や生い立ちを知っているからか、気持ちがよく理解出来るような気がした。
憎しみに突き動かれて、がむしゃらに頑張ってきた結果がコレである。
(………不器用なのかな、アマリリス)
悲しみと寂しさ……様々なものが折り重なり、心は負の感情で荒れ果てている。
正しい道は第三者から見れば分かりやすいが、本人からはなかなか見えないのだろう。
諦めたり逃げたりするのは簡単だが、向かい合うのは本当に難しい。
しかし、アマリリスは真っ向から立ち向かっていた。
(強い人だな……私なら心が折れちゃうよ)
そんな事を考えながら体を拭き終わり、シャツを羽織り蛇口を捻り桶に水を溜めてから髪を洗う。
欲をいえばお湯で洗いたかったが仕方あるまい。
石鹸で髪を洗った為か、髪がキシキシとしている。
次に石鹸を泡立ててから顔を擦る。
絵の具の水を溢したような濃いメイクを落とし終わると肌は乾燥で突っ張っているが、さっぱりとして良い気分である。
(香油でもあればいいけど、仕方ない)
これ以上、贅沢品を強請ればバチが当たるだろう。
水溜りに映るのは全ての武器を取り去った年相応の少女である。
美人ではあるが、完全武装したド派手なアマリリスとは全く違う印象だ。
(やっぱり、メイクとドレスの印象って大きいんだなぁ……)
タオルで髪の水気をパンパンと叩き、拭き取ってからクルリと髪を巻く。
そしてシャツに袖を通してボタンを閉じれば、爽快感と開放感にクルクルと踊りたい気分になった。
暫くベッドに座ってユリシーズが来るのを待っていると、体が温まったのか眠気が襲ってくる。
倦怠感に流されるまま、ベッドに横になり、そのまま眠りについた。