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01.はじまりの物語(1)



侯爵令嬢、アマリリス・リノヴェルタ



ダークチェリーの髪にクリムゾンレッドの瞳。

マゼンタの派手なドレスは彼女のトレードマーク。


美しき暴君……男性を惑わす悪魔。

艶やかな蝶のように見る者を惹きつける美貌で、彼女は華やかな階段を駆け上がっていった。

社交界を席巻するアマリリスは、この国の第二王子であるハーベイの婚約者まで伸し上った。




そんな彼女は、煮えたぎる憎しみを抱えていた。




アマリリスはリノヴェルタ侯爵が孤児院から引き取った養子だった。

アマリリス……その名は生まれた時からあるペンダントの裏に刻まれていた。

アマリリスは、それしか持っていなかった。


孤児だったアマリリスは貴族になる事が出来ると心から喜んでいた。


見た目が美しくリノヴェルタ侯爵と髪色が若干似ているから……ただそれだけの理由で選ばれたことを知ったアマリリスは美に執着した。


(可愛くないと、綺麗じゃなければ捨てられてしまう…)


アマリリスは、恩を感じてリノヴェルタ侯爵達の為に己を磨いていた。

例え、何も期待されていないと分かっていても、手に入れた地位を手放すまいとアマリリスは必死だった。


(あんな貧乏くさい場所に戻るなんて絶対に嫌)


しかし、成長する度に増していく違和感。

"アマリリス"を引き取ったのは自分達の体裁を守る為の行動に過ぎなかった。


アマリリスはリノヴェルタ侯爵家のアクセサリー代わりだった。リノヴェルタ侯爵と夫人と親子のようになれる瞬間は、外に出かける時だけだった。

皆、アマリリスを引き取った侯爵達を褒め称えた。

それだけの為に、引き取られたのだろう。


(わたしは何のためにいるの……?)


今まで、特に親らしい事をしてもらった事はなかった。


顔を合わせれば「リノヴェルタ侯爵家として恥ずかしくないように」「しっかりと励みなさい」とキツく言われていた。


世話は侍女達に全て丸投げだった。

何も知らないまま貴族としてのマナーや勉学を死ぬほど厳しく叩き込まれた。

それは幼い子供には余りにも辛い経験と恐怖だった。


いくら助けを求めても誰も応えてはくれない。

屋敷の者達は誰一人として、彼女に手を差し伸べはしなかった。

侯爵達から大切にされていないアマリリスに何をしてもしなくても、咎められることはないからだ。


アマリリスの立場は自然と低くなっていく。


(何故、わたしを引き取ったの?こんな惨めな思いはもう沢山だ)


密かに憎しみを溜め込んでいくアマリリスに誰も気付く者はいなかった。


成長したとしてもアマリリスの扱いは変わらない。

孤児だから、平民のくせに……そんな心ない言葉が、いつも陰から聞こえてあきる。


そんな時、子が望めないと言われていた侯爵夫人が子供を授かった。

引き取られてから、ずっとリノヴェルタ侯爵達に愛情を貰った事はなかった。

けれど、アマリリスが欲しかった全ての愛情はお腹の子供に注がれた。


そしてアマリリスが五歳の時、ルーシベルタが生まれた。


ルーシベルタが生まれてから、アマリリスに向けられた興味すらも奪われてしまった。


待望の血を分けた実子に夢中だった。



いくら勉学を頑張っても、沢山ダンスを練習しても、美しくなる為に努力をしても……ルーシベルタには敵わない。

名を呼んだところで視線すら合わせてくれない。



その瞬間、アマリリスは現実を思い知らされた。



孤独に苛まれて、眠れない日々を過ごしていた。

夢にまで見た生活は、冷たく殺伐としていた。


希望は打ち砕かれて、端へ端へと追いやられていく。

そして、その絶望は狂気へと変わる。



アマリリスは、次第に我儘を言うようになった。


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