08 兆し
とある森の中、常に濃霧が立ち込めるある場所で、少女二人が戦っていた。
瓜二つ、いや、全く同じ二人だが、決定的な差があった。
自分と向き合っているか、いないか。
影を影たらしめる所以は、光があるから。
光りを強く見ようとすればするほど、影はその色を濃くする。
――――――――――――――――――
戦力差は圧倒的だった。
何度も言うが、私の身体能力はあれほど高くない。
それを補えるのは剣技や構えの技術だが、当然ろくに戦闘をしたことが無い私にとって、見よう見まねで粗が残りすぎていた。
確かに、あの構え、あの踏み込み、あの斬撃。
前に何度か見たシンの型によく似ている。
アレは、私の記憶の中からシンの動きを正確に抜き出しているのだろう。
経験だけが今の私の取り柄。なるほど、アレは私なのだ。
『どうした? まさかこの程度で終わりではないだろう?』
この常に余裕を持った口調も、彼の特徴の一つだった。
私らしくない。
よろよろと剣を支えに立ち上がる。
だが、それを確認した奴の容赦のない踏み込みからの斬撃により、再び後ろに押される。
何か打つ手は無いのか。
何か――――
蘇るのは、古い記憶。
私がまだ子供の頃、帰宅した父親から剣術を教わったとき。
何度も何度も打ち込みを繰り返し、その度にいなされ、弾かれ、叩きつけられた。
私は何故そこまで強いのか、と父さんに聞いた。
他の有名な冒険者と同じで、強いスキルを持っているのか、と。
だが、返ってきた言葉は違った。
『そんなことは無いよ。父さんだって、そりゃぁくれるんだったら強いスキルを貰いたかったさ。』
『でもそうじゃ無かった。だから、努力するしかなかった。』
『冒険者になって、剣術だったら<剣聖>とか、体術だったら<見切り>とか、そういう強い人達の動きを必死で観て、学んで、自分の物にしたんだ。』
『だからカーリー、どんなスキルを持ったとしても、これだけは忘れないで。強くなる一番の方法は、強い人の技を観て、盗むことだ。』
朦朧する意識の中、傍にもう一人の私を見据える。
その手に持つ剣は私の喉元を捉えていた。
『悲しいが、これでお別れだ。』
まるで、私が何かを見つけたことに気付いたように。
もしくは、最後のチャンスと言わんばかりに。
即座に軋む腕を動かし、剣の腹を叩く。
指の皮膚が剥がれひりひりと痛むが、今は構っている暇はない。
顔を思いっきり逸らし、ギリギリで刺さる剣を躱す。
『…!!』
動揺する奴の腕を掴み、思いっきり叫んだ。
「<共感>!!!!!!!!」
雪崩れ込む忘れていた記憶。出会い、別れ、喜怒哀楽。
今まで自分自身に<共感>を使った事は無かったが、なるほどこういう風になるのか。
奴の体を通じ、今の自分の体の状態を知った。
お陰で自分の事は全て理解できた。
体力的には限界が近いが、まだ動くことはできる。
自分の強み、自分の弱点、自分の記憶。
ハンデはこれで埋まった。
それぞれの動きの負荷を肩代わりする技術、その穴を突く。
「心を読む」は仮初の情報。
これが、<共感>の本当の使い方…!
時間で換算すれば残り2分も持たないが、それだけあれば十分だ。何しろ相手は私なのだから。
奴の顔から軽蔑の陰りが消え、気配が鋭くなる。
『ようやくまともな顔になったな。』
――――――――――――――
『せいっ!!』
「 はぁぁっ!!」
奴が踏み込む瞬間、私も僅かに遅れて踏み込む。
限られたエネルギーを最大限に活用するために合気と遠心力を利用したシンの斬撃は、前に一度破られたところを見たことがある。
シンの故郷特有の流派の合気、それは自分と相手との「気」の流れを合わせ、最低限の力で最大限の効率を生み出す技術。
本来防御として使われてきた技術だが、シンはそれを攻撃に転じていたらしい。
しかし防御面では隙のないものだが、自分から攻撃する場合はどうしても粗が生まれてしまう。
そこを突いたのがこの半歩ずらし。
合わさった「気」を敢えてずらし、攻撃の精度を下げ、ずれた「気」にこちらの踏み込みをぶつける。
その結果「気」を乱されたことで、身体のバランスを大きく崩すことになる。
「気」と表現しているが、要は力の流れと思っていただきたい。
一瞬早ければこちらの「気」が乱され、一瞬遅れれば攻撃が当たってしまう。刃を素手で受け止める、シンの故郷で「白刃取り」と言われていた技術のように、非常に調整が難しい技法。
だが私は既に「観て」いる。一度蓄積された情報ならば、<共感>を通じて体が学習してくれる。
これが、父さんの言っていた「技を盗む」ことだろう。
思惑通り奴の振りかぶった剣にカウンターの剣がぶつかり、奴の体勢が大きく乱れる。
『!!!!!!』
奴の表情から初めて余裕の面影が消える。
こちらも体のガタで反動すらまともに受けきれない状態だが、今の一撃で状況は大きく変化した。
そのまま足を強く曲げ、前方に跳躍する。
魔物を誘き出す囮に抜擢される程、実は私の足は速い。
その理由はただ体が比較的軽いという事だけでなく、その跳躍力にある。
こと短距離であれば、私はリーゼ村はおろか、レシェル村の誰にも負けないだろう。謎理論によって一時的に加速できる<瞬足>は別として。
これまで戦闘では役立つことがほとんどなく持て余していた足だが、ようやく出番が巡ってきた。
2~3m程度の距離なら立ち幅跳びの要領で一瞬で詰めることができる。
「とおりゃああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そして今度は私が<共感>で取得したシンの技術を使い、力の巡りをコントロール。
最大、最速の斬撃を叩きこむ!!!
――――――――――――刹那、奴は笑っていた。
その笑みは今までの嘲笑とは違う、どこか満足感を孕んでいた。
ただ純粋な、私が失ったはずの心から笑えた笑顔を。
極限まで効率化された斬撃は、奴のショートソードを真っ二つに斬り、そのまま腹部まで斬り裂いた。
血が噴き出すようなグロテスクな光景は無く、斬り裂いた部分から光の粒子となって消えていく。
『なんだ……やればできるじゃん…………』
そう満足げに言い残しながら、彼女は消えていった。
その言葉は、私が言おうとした言葉だった。
いつの間にか霧は晴れ、月明かりが進むべき道を照らしていた。
そして、彼女の足元には、真っ二つに割れた、あの道しるべの石が落ちていた。
読んで下さり有難うございます!!
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最後の演出が岩を斬ったそれに既視感を覚えた人、素直に挙手して下さい。
私→(゜∀゜)ノシ
自分との対峙なのでどちらかというとペルソナに近い感じで書いたのですが、やはり〆はこういう風に書きたかった。 でも書いててエモいので、この演出はお気に入りですね。