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67話 乱入者 その6

その言葉を皮切りに、先に動いたのは奴の方だった。

地面を踏みつけ、恐ろしいほどの魔力の奔流による衝撃波を繰り出す。

並の魔物なんか屁じゃない威力。竜種に匹敵する魔力量。


寮を模した空間が崩れ、ひびが入る。

背景が部屋からあのグラウンドへと形を変えた。



今迄であれば、この一撃で僕は文字通り塵一つ残さず潰されていただろう。

だが、僕だってこの2ヶ月間何もしてこなかったわけでは無い。



「[ポイント・グラヴィティ]!!」



身をかがめて、魔法を放つ。


指定の空間に重力場を発生させる[グラヴィティ]、それを更に局所化したものだ。しかし、そもそもこの魔法自体があくまで足止め目的で開発されたものであり、いくら局所化して威力を増したとしても、ロクに当たらない為本末転倒である。かと言って威力を犠牲に範囲を広げる[ワイド]化では人間の魔力量では効果が殆どなくなってしまうため、これまた使い道が無い。

[グラヴィティ]は、接頭字である[ポイント][ワイド]は使える魔法が意外と限られる良い例だ。


ただし、物理的拡散に左右されず、安定した力場を作り出せるという点では、この魔法は大いに役立つ。



目の前に重力場を設置することで、球状に広がる衝撃波は重力場の端を沿うように流れて行く。球の接点は1箇所のみ。初等部でもわかる簡単な理論だ。

自分一人逃れるだけであれば、衝撃波と言うものは意外と躱しやすい。




爆風をやり過ごしたら、次の手は。

超高速で眼前に迫る蹴りを、<剣舞>の応用による高速反応で回避する。更に奴が脚を引っ込める前に掴み、そのままの威力をキープしながらハンマー投げの要領で投げ飛ばす。


恐ろしいほどの負荷が腕にかかるが、実力派閥での特訓の成果によりまだ動かすことが出来る。

すぐさま追撃するべく走る。



一方、奴も空中で体を回転させ、エネルギーを逃がして着地した。

それと同時にこちらの剣(木剣ではなく真剣)が振り降ろされる。


<剣舞>により剣にかかるあらゆる負荷を全て威力に変換した一撃は、奴のガードした腕を斬り落とした。



『っ!!!!』

「(いける…!!!)」



向こうにとっても腕を落とされたのは意外だったようで、一瞬動きが止まった。

このまま切っ先を反転すれば、奴を倒せる…!!!





「(………!!!!!?)」


しかし不意に、強烈なプレッシャーに襲われた。

あの時腹部を貫かれる寸前に感じたそれと同じ。とてつもない悪寒。

すぐさま剣に引っ張られるように側転し、奴と距離を取る。



『どうした? 腕一本で終わりか?』


斬ったはずの腕は、いつの間にか傷跡一つ残さずに元に戻っていた。


超速再生、色付きに匹敵する身体能力と魔力量、そしてまだ何か奥の手がある。

正直嫌になってしまう程の差だが、諦めるわけにはいかない。



『来ないのなら』


魔力の流れから先に体が反応し、理解が追いつく前に盾にした剣が真っ二つに砕かれていた。

認識できない速度の攻撃。ビスタは知る由も無いが、現実世界で<共感>がアイボリーと思わしき人物に放とうとしていた[スパイラルショット]と同じ物である。



『こちらから行くぞ。』


―――――――――――――





底が見えない魔力量から繰り出される圧倒的な攻撃力は、躱すので精一杯。それが何発も降り注ぐのだから攻撃どころの話では無い。



『ほらほらどうしたァ!!!! ワタシを倒すのでは無かったのか!!?』



一方で奴はただこちらに向かって魔力を纏った腕を振り続けるだけで良い。腕もすぐに再生されるので、特に考える必要も無い。赤子を殺すより楽な作業だ。




「くそっ!!!!」


最初に何故か手に握っていた真剣も、特に僕の意志で直したりすることが出来るわけでもない。

奴の周りを回るように走りながら、攻撃を躱し続ける。



『ふはははははははっ!!!!!』



そして、ようやく魔力波に体が慣れたところに本体が突っ込んでくる。

攻撃自体は大振りで躱すことは容易いが、今度はその頻度が問題だ。よくあるラッシュの速度で、ワンツーと同じ威力の打撃が飛んでくる。


特訓でもラッシュを捌くことはあったが、流石にこの速度では対応しきれず、何発か喰らってしまう。



「ぐっ…」



身体が軋む感覚が襲い、それと同時に痛みがそれ以上にのしかかる。

これでお互い血だらけ。最も、向こうはいくら出血しようが関係ないのだが。




奴が一歩踏み込み、拳を溜める。

次の大技はパリィできない。ただ躱すだけではダメだ、魔力波を避けるには確実に射程圏外に逃げなければならない。

だが、この距離では…!!!







――――――――――



「うわぁっ!!!!!」



ある日の放課後、ファーディ先生に稽古を付けてもらっていた。

実力派閥での訓練は、あくまで実力が拮抗した生徒相手であるため、格上を相手にするには先生に頼るしかない。


しかし、まぁ何と強い事か。

訓練で一通り剣技や戦闘中に使う動作クラスの魔法のチューンナップは出来たつもりだったが、相手は遥かにその先を行く。



今回も、隙を突かれた拳を寸前で弱めてくれたから軽傷で済んだものの、あの化け物が相手なら首から上が吹っ飛んでいた。



「お前は…そうだな。授業とかでも思うが、初撃で有利を取った後に、そのまま自分のペースに持って行く戦い方だ。これが同格相手ならいいが、格上相手には通用しない。力量差でペースなんていくらでもひっくり返せるからな。

初撃が成功したとて、それが何だ。たかが一時の優勢を取った所で何の意味も無い。優勢というものは維持し続けることで意味がある。

一言で要約すれば、「舐めるな」って所か。」


「………」



痛いところを突かれてしまった。

彼の言っている事は正しい。僕の戦闘スタイルでは、同格程度であれば勝ちやすい攻めの姿勢であるが、それではただの雑魚専。カーリーにはまだ

及ばない。勝てない。彼女は気付いていないかもしれないが、僕にないものを持っている。



「攻撃力は十分だろう。実際俺もまともに受けたら結構手が痺れたしな。適度な助走距離があれば俺より上だ。そこは誇っていい。

だが、お前はそれに頼りすぎている。戦闘は攻撃だけが全てじゃない。

攻撃、防御、回避、妨害、連携。これらの総合点で競い合うのは言うまでもない。その中で一瞬の隙が生死を分ける。」



「お前は洞察力に長けている。だからこそ攻撃で圧倒しながら敵の手を潰すそのスタイルを取った。それが通用しないなら、別のやり方でやれ。」


「別のやり方…?」


「簡単な事だ。短期決戦(アグロ)から中期妨害(コントロール)に変えればいい。

相手の行動の一つ一つを妨害しながら、一瞬の隙を作りスキルによる一撃を叩きこむ。お前にはそれができる。」



――――――――――



大技は一番妨害しやすい行動、一番隙が生まれやすい行動。

逆転のタイミングは今しかない!!!!




迫りくる拳を蹴り落とし、上へ跳ぶ。

触れた足先がエネルギーに耐えられず捻じ切れるが、直撃よりマシだ。





「っ…うおおおおおおおおあああああっ!!!!!![ポイント・スフィアホール]!!!」



[グラヴィティ]が斥力ならば、[スフィアホール]は引力。

同じく足止めとして使われる魔法であるが、局所(ポイント)化することで引力を強化し、移動の補助に使用することが出来る。


これにより僅かに体を浮かし、余波から身を捻り躱す。




『ほぅ…?』



それと同時に折れた剣の切っ先でスレスレで通り過ぎた魔力波を斬り、その威力を纏わせる。

あまりのエネルギーに、何度も回転させなければ腕ごと持っていかれそうだ。

だが、それでいい…!!



『………ははははははっ!!!! いいぞ!!!! 痛みをよこせ!!!!』




腕を広げ、体を無防備にさらす。

舐めているのか、狙いがあるのか。だがどちらにせよこの機を逃す手は無い。



「弾けろォ!!!!」



回転でベクトルを完全に反転させた一撃が、雷の如く奴に落ちる。再生能力が在ろうと、一撃で倒せば関係ない。

全ての力を振り絞った捨て身の特攻を、今。

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