65話 乱入者 その4
同日、<共感>が目覚めた頃と時を同じくして。
「はぁ……はぁ……っ
やった……やったぞッ!!!!!!! オレはやったんだッ!!!!!!!!!!!
ついにあのクソ野郎をブッ殺したんだァァァァッ!!!!!!!!!!!!!
やったよみんな!!!!! 敵はオレがとったよ!!!!!!!!」
メイ・クラウン、もといトラウマの幻覚を何とか倒し、膝をつく。
彼女は勝利したのだ。かつての仲間達が遺していった武器を全て使い、全身全霊を以てして。
振り返る。
いつもそこには仲間たちの死体と、その中心に奴が立っていた。そして私を殺しに来た。
でももう奴は居ない。私が見るのは、ただただありふれた現実だけのはずだ。目を逸らしたくなる光景は、もう無いはずだ。
これで悪夢は終わる。
もう奴に殺される夢を見る事は無い。
オレは、私は、ついに奴を殺して、仲間の敵を取ったのだ。
何日も何週間も何ヶ月も何年も私を苦しめた奴はもうこの世にいない。
夜の帳、朝の雲雀。覚めない悪夢など無いのだ。
そのはずだった。
「なん………………で……………………」
そこには、私が立っていた。
仲間達の死体の中心に、丁度奴の代わりのように。
その手には血塗られた剣が、私が使っていた二丁の剣が握られている。
幻覚の私が笑いかける。彼等を殺したのはお前だと。
「違う………違う…………違う!!!!!!!!!
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!!!!!!! オレじゃない!!!!! オレのせいじゃない!!!!!!!!!
あの人達を殺したのはオレじゃない!!!!!!!!!!!!!!!」
希望が絶望に変わる。
悪夢は未だ覚めていない。彼女に罪の意識がある限り、この劇は永遠に繰り返される。
この幻覚は彼女自身が作り出した過去の幻影、罪の意識。だからこそ彼女は魔王の眷属とやらを必死に探して、殺そうとしていた。仲間を見殺しにして一人逃げおおせた罪を償えるのは、奴を殺すことだけだと。
そんなもので終わるはずが無いのだ。
彼女が自身の罪と向き合わない限り、殺す先を移して延々と罪に裁かれ続ける。
幻影がそのにやけた口を開こうとする。
その言葉を聞いてしまえば、全てが終わってしまう。
罪に押し潰されてしまう。
私がオレでいられなくなってしまう。
「そうだ………お嬢………お嬢さえ居れば、私…オレはそれで……………
……………お嬢…………………?」
咽びながら屋上を這い、空いた校舎の穴の下には、
彼女の、ロットの友達の、私と同じ赤い髪の少女が、首なし騎士を今にも握りつぶそうとしていた。
直感で理解した。その首なし騎士が、お嬢であると。彼女が泣いた姿であると。半魔人ゆえか、長い間面倒を診たからか、それとも他の要因があるからかは分からないが、その姿からは確かに彼女の悲しみが伝わってくる。
「お、おい…………何を………………何をしているんだ……………
だめだ………やめろ……………………お嬢を殺さないでくれ…………
オレからお嬢を奪わないでくれ……………………」
ぱしゃ。
風船が潰された。
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『(魔術……200年くらい前の噂だったかしら。実際受けてみると面倒極まりないじゃん。される側も、する側も。)』
指先一つどころか、魔力さえも流れない状態。術式発動の為に手を掲げた時点で完全に止まっている。
一発、眉間にレーザーを受ける。しかし、魔戒術式の反動を防ぐため、ミリナの身体は高密度の魔力を展開していたことに加え、ただでさえ高い防御性能を誇る魔力が霧散せず停滞しているため、リオンの出せる火力では到底届かないレベルにまで硬化されていた。
『(流れないと言う事は、逆に言えば分散もしない。もう少し早く魔術とやらを使っておけばよかったね。それとも私の術式から漏れ出た魔力をピースとして使ったって感じ?
まぁ、どちらにせよ「数式」なんていうくらいだから綿密な触媒の配置が必要不可欠だろうし、今「獣」があちこちブッ壊してるからすぐ動けるようになるっしょ。)』
何発もリオンが魔力砲を撃ち続けるが、悉くミリナの身体に到達する前に弾かれてしまう。圧倒的なまでの出力差、ミリナもルベルグ同様フィジカルや魔力は魔人の中では上位では無い筈だが、それでも人間のステータスの限界点を突きつけることは容易い。
我慢比べならば向こうに勝ち目はない。
『(それに………もしもの時の隠し玉もあるしね。)』
―――――――――――
全方位から魔機による砲撃を放っても、奴はびくともしない。
奴が恐らく想像している通り、この魔術は捕縛対象に比例して相応の魔力をトリガーとする必要がある。その為、最低限漏れ出る魔力を余裕で上回る火力が必要になってくるのだ。
いくら最もpMが高い国であるアレイスター産の魔結晶を使用しているとはいえ、流石に相手が悪すぎた。「赤」やカーリー等の例外を除けば、準遺物クラスをしてようやくまともにダメージを与えられる相手では、1つで国家クラスの魔法を使える100年単位以上の魔結晶が必要になる。
「……っはぁっ……はぁっ………」
本人の魔力も限界に達しており、片膝をつく。魔力の過剰使用により心臓がはち切れそうな程動き、血管が破裂して体中に青痣ができる。生きているのが不思議なくらいだ。
だが、それでもなお魔力砲を撃ち続ける。
外から轟音と共に何かが弾けるような音がした。
『(思ったよりアホねコイツ。無駄な事だって何で分からないのかしら。ああ、それかもしかしてプライドが高すぎて現実を受け入れられないタイプ? ルベルグみたいな根暗野郎ってどこにでもいるんだ。
は~、これだからインテリって嫌いなのよね~。無理な物は無理っていい加減理解しやがれ馬鹿が。)』
「…とでも………思っていらっしゃるのでしょうね…………」
『(………ハァ?)』
「……potential of Magitec。pMってご存知…かしら…?」
魔法係数、乃ちこれまで表記してきた「魔力濃度」を数字で表す指標のことだ。これが高い地域では魔法はより強力になり、逆もしかり。
そして何より重要なのは、pMが極端に変化すると、生命体は対応できず致命的な拒否反応を起こしてしまう事だ。淡水魚を海水に入れたようなものである。最低でも四肢欠損以上の重傷や後遺症、最悪の場合では元の生命体とは逸脱した、スライムのような混合体に溶けてしまう。
また、ダンジョン産の生物のような、肉体さえも魔力で構築している場合は、最悪跡形もなく消えてしまう。
「…私の魔機は、魔力砲を放つ際に内部の魔力を空にしますの……要は空間に漂う魔力を吸収するわけですのよ……この意味がお分かりかしら?」
『(つまり、その空間の魔力濃度が下がる………… そして、奴はわざわざ自分の魔力を消耗して……… いや、体内の魔力濃度を下げた!??
周囲のpMと適応する為に!!!!???)』
ただでさえ元々魔力が少ないリオンが、体内の魔力をすっからかんにして、ようやく適応できるレベルのpM。
そして、当然ながらミリナは魔人、人間界より遥かにpMが高い魔界に生まれ、無意識の拡散を防ぐため魔導具によって大部分の魔力を抑えているが、それでも人間界の中で最もpMが高いアレイスターをしてようやく活動ができる。
再び、外から崩れるような音が聞こえた。
カーリー、もとい「共感」が学園のグラウンドに大穴を開けた。勿論、魔人を拘束できる程の魔術であるため、今破壊された箇所にも必要なピースが入っている。
ミリナの予想通り、「共感」がブッ壊したおかげで数式は狂い、その効力を失った。
もっとも、彼女の想像よりも遥かに最悪な形で。
「固定」されていた彼女の魔力は、止まっていた分まで動こうとするかの勢いで、周囲の空間へ希釈されて行く。
例え主がどうなろうとも知らずに。




