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28.8話 スキルの本質 その2

咢が開き、今まさに絶対温度にして773Kは下らないであろう暴力的なまでの熱量がばら撒かれようとしていた時だった。


「ヤバッ……」


クリネアのように耐火性のエンチャントが施された鎧を付けているわけでも、ソルトンのように咄嗟に魔力防護壁を貼れるわけでも無い。

爪の魔力を乱した合わせ技も、連続体である竜の吐息相手では効果が薄い。



「(稼げて1秒…………

……………………………………いや、無理か)」


なにより先の合わせ技で、体には相当の負荷がかかっている。

同調した魔力をずらすという事は、それなりの反動が身にかかるという事だ。

おまけに「黄」にやられた傷はまだ応急処置が済んだ程度であり、これ以上の無理は死を招く。



つまり焼かれて死ぬか、反動で体が張り裂けて死ぬか。

その2択。




「(死ぬのか……俺…………?

まだ、あの人との約束も果たせてないのに…?

まだ、あいつの夢も叶えてやれてないのに…………?)」



人間は極度の集中に陥ると、<見切り>のそれと同じように時間の流れを非常に緩やかに感じるらしい。意識をはっきりと保ったまま、1秒が何十、何百秒にも膨れ上がる。


何度も味わった感覚。

しかし意図せず引き起こされたこの不和は、異常なまでの嘔吐感を引き起こした。車酔い、二日酔い、兎に角気持ちが悪い。今すぐにでも吐きそうだ。




これが死の恐怖?

これが絶望?



否、否だ。


これは、「あの時」と同じ、







そう、後悔。そして安堵。

やり残した後悔と、解放への安堵。



冷や汗一滴。




「(…だが、どうせ死ぬなら………このデカブツだけでも………!!!!)」







だが、運命は未だ退場を許してくれない。





突如として、竜が大きくバランスを崩す。それと同時に喉元の熱が物理法則に従い一気に拡散した。


目線を上げると、そこには巨躯に吹っ飛ばされつつも空中で身を翻しているリルナの姿があった。




逆鱗。

それは堅牢な竜種の鱗の中で唯一軟な部位。全身の魔力のスクランブル地点であり、ここを攻撃されると僅かな間、全身の魔力が乱れて殆ど動けなくなる。

また、それと同時に魔力に関するあらゆる特性も無効化される為、正に致命的な弱点と言えよう。


しかし、鱗は合計で何千枚と生えており、その中の1枚を戦闘中に見つけなければならない為、ほぼ発見は不可能だ。



だが、リルナのスキルならば、話は別だ。

<迷宮地図>は魔力の流れを感知する。集結点を見つけることなど雑作も無い。


加えて彼女は補助系スキルであるのにも関わらず、移動系スキル持ちに匹敵する程の驚異的な身体能力を持ち合わせており、場所さえ解れば攻撃を当てることなど容易い。例え今なお羽ばたく翼の羽の1枚であろうと。




強烈な熱風を真っ正面から受ける。

ひりひりと焼ける肌の痛みが、時間感覚を現実に引き戻す。

生きている。俺はまだ生きている。この熱が、痛みが、生かしてくれている。







「………………………っ『死の目』ッ!!!!!!!!!!!!!」


――――――――――


財宝の幾つかは例の尻尾の振り回しでダメになっていたが、意外と無事な物が多かった。

勿論メンバーも誰一人欠けることなく。


Aランクダンジョン、総合68位「フルムーン侵蝕深部」。

現在確認されているSランクダンジョンの残りが12個であることを考慮すると、かなり上位に食い込んでいるだろう(※)。


(※ダンジョンの合計数は「ゲイザー森林」のようにランク外すれすれのモノを含めれば、1000は余裕で超える。流石に未攻略のモノは半分未満だが。

ダンジョン症候群とも呼ぶべきこの異常なまでの量は他国では見られず、1国家100~200が普通である。)



Sランクパーティになって、あと3ヶ月で2年。

約束を果たすためには、あと3ヶ月間はSランクパーティとして維持しなければならない。パーティ・冒険者に関わらず、AランクとSランクの違いは成果の継続性と言っても過言ではないだろう。勿論「色付き」は例外として、それに一歩及ばないが稀有な能力を持っている場合はその限りではないが。


例えば

・「碧」程ではないが集団殲滅に特化した「レッドパレード」。

・「白」程ではないが対個体戦闘に特化した「苦悶の十字」。

・「黄」に次ぐ魔機や術式回路のエキスパートである「未来工房」

等々が挙げられる。


うちもソルトンやクリネア、リルナと言った冒険者の中でも指折りの実力者が揃ってはいるが、ずば抜けた得意分野は無い。

まぁ、言ってしまえば「替えが効く」のだ。指折りの実力であって最強では無い。突如として姿を消した最強の攻略班「泡影の茶会」の劣化版でしかないのだ。



ただ今回のダンジョンで、リルナのスキルの本来の使い方が把握できたのは良い成果だった。彼女の理論が正しければ、他の数十人の<迷宮地図>持ちも同じことができるはずだが、はてさて。



「(しかし、あの子もそうだが、今回の件で司祭の存在がいよいよ怪しくなってきたな。協会は何を隠している…? 


司祭という他人のスキルを見ることができる血族、個々人によってあらゆる能力は差別化されるはずなのに全く同じ説明のスキル、そして何よりあの子のように磨く前の原石を「外れスキル」と呼び卑下する風潮………)



………そして、これか。」




今手元にあるのは「黄」から送られてきた謎の手紙。

一見するとただの詫びの手紙だ。こちらもお陰様であと2週間はろくに動けないから詫びの一つや二つせびりたいのは確かだが、あの「黄」の事だから何か仕掛けがあるはずだ。


それも、ギルドホールの検閲の人達にばれないよう、相当厳重なプロテクトでロックされたメッセージか何かが。






扉がノックされる。

丁度いいタイミングだ。


「ただいま戻りました。それで、「黄」からの手紙と言うのはそれですか?」


「ああ。魔法は素人だからさっぱり分からん。頼むぞ。」


「まぁ素人でもわかるくらいの仕掛けならとっくに検閲喰らってるでしょうね。」


「確かに。」




はらはらと手紙に目を通し、しばらく時間が経った。


「どうだ? 何か見つけたか?」


「……………これは………道具が要りそうなので取ってきますね。探すのに時間かかりそうなのでしばらく待っててください。」



そう言って手紙をしまいながら部屋を出るソルトン。


それから30秒程経過した頃だろうか、来客の予定も無いのにドアがノックされた。


そろそろ潮時か。まぁこの時の為にパーティの主旨をダンジョン攻略にしたんだけど。



「………………帰ってくれるかな。」



次の瞬間、ドアがこちらへ吹き飛ばされると共に、その後ろから上、右、左と3方向に黒ずくめでダークを携えた暗殺者達が飛び込んでくる。




「帰れっつってんだろ、三下共が。」



暗殺者達が半径1m以内に入った瞬間、俺の身体は自動的にそいつらを迎撃した。刀を存分に振るえる程回復はしていないが、この程度であれば手刀で十分。

リルナから聞いた<迷宮地図>の使い方と、ソルトンの魔力操作の物まねだ。


流水のような動きで一人、一人と斬り裂いてく。

半径1m内の魔力の流れに意識を集中させ、魔力感知器官の感度を上げる。そして特に魔力の流れが交差している部分を手刀で斬り裂き、その瞬間、ほんの一瞬だけ魔力を操作し滝のように流れる魔力を逆流させる。




そのまま暗殺者達はドサッと倒れ込む。斬られたダメージに加え、魔力の逆流で血管が切れてしまっている為出血多量でいずれ死に至るだろう。


<見切り>を使うまでも無かった。



「さて………」


魔力量も大したことない、使用されているダークは…そこそこいい工房なのは間違いないが、メーカーが書いてないな。オーダーメイドか。裏の仕事を受け持つパーティがあると聞いたが、まさかそいつらか?


「………まぁ、その前にまずは掃除を済ませてからだな。

やれやれ、こっちは怪我人だっつーの……………」


―――――――――



「部隊は全滅しました。やはり金目当ての素人達では無理があったのでは?」


『問題ない。臨床試験の前に動物実験を行ったまでだ。ネズミなど吐いて捨てる程以上、データさえ取れればそれで良い。』


「本当に殺すおつもりで?」


『まさか。彼の目的を邪魔する必要は無いが、ヴェールが捲られるのは阻止しなければならない、それだけだ。

場合によっては君もな。』




通信を切ると、彼女は溜め息をついた。

このクソなお偉いさん方のお陰で、貴重な原石が磨かれぬまま消えてしまう。世の中にはありきたりな勝ち組だけが残る。実力をある程度兼ね備えた人間だけが残ってしまう。



「……………要らないんだよ、優秀な人間は。

私が欲しいのは愛すべきお客様(バカ)だけだ。」

次からほんへに戻ります

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