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28.5話 スキルの本質

「それ」に気付いたのは3ヶ月程前だった。

まだ彼女がここ(錆の邂逅)を抜ける前、あの人の指示通りあの子に嫌がらせをしていた時。


私のスキル、<迷宮地図(メイズマップ)>は、文字通りダンジョン、もとい「迷宮」の構造を半径5mの範囲まで完全に把握できる。

逆に5mより離れた位置からの罠や魔物は分からない為、彼女を追い出すときには口では「要らない」と言ったが、そんな事は無い。(まぁ彼女の力量的に今攻略しているダンジョンの魔物達に通用することはまず無理だから、あながち間違いと言うわけでは無いが)


ついでに魔物が検知範囲内に居れば、その情報も大まかに伝わってくる。あくまで大まかに、だ。


<跳躍>や<見切り>同様アクティブ型のスキルなので、タイミングは任意で発動できる。発動条件は手で構造物のどこかに触れる事だ。

手の平を介し、周囲を漂う微細な魔力、その全てを感知・処理する。


初めの頃は一度に脳内に入ってくるあまりの情報量に、何度かパンクすることがあったが、今は処理に慣れた受付さん達のように、形状から罠の種類や魔物のタイプなどを瞬時に把握することが出来るようになった。



さて、あらかた説明を終えた所で本題に入ろう。


きっかけは魔機を組み立てている時だった。

あのクソメガネ(ソルトン)の趣味のせいで、久々の休日にその道では有名な店に駆り出され、簡易的な魔機の作成をすることになった。

正直魔機なんてこれっぽっちも興味が無かったし、そもそも近接系なのに異常な魔力量を持つシンだったり、魔法系のソルトンならまだしも、基本的に魔力を使わない自分では補助魔法に精一杯で、求められる動力を確保できる程魔力が余って無いからだ。


当然出来上がったのは、誰が見ても素人目な術式構築で、荒削りと言わざるを得ないような代物だった。その隣で、店主さんも目を丸くするような綺麗な術式で、かつ融着やコアとなる魔結晶の角度も完璧な仕上がりな魔機を作ってドヤ顔するソルトン。



『分かりますか? これが「芸術」です。』  ―――ソルトン・レイクレイドル



ついイラッとしたので、そのパーペキな芸術品を作成者の目の前でブチ壊してやろうと思い、おもむろに流体形のフォルムの魔機に手をかけ、魔力を流し込もうと意識を集中した。


そう、意識を集中する。

つまり、感覚器官が鋭敏になるという事。鎮痛療法として現在痛む箇所とは別の部分に刺激を与えると痛みを忘れると言うが、原理はその逆だ。


「感知・処理」、それが<迷宮地図>の本質では無かったか?





次の瞬間、脳内に流れ込んできたのはほかでもない、今ぶっ壊そうとしている魔機の内部構造そのものだった。

術式のパイプを通じて魔力の出入り口を持ち、魔結晶というコアを備えて「迷宮」の条件を満たした魔機に、<迷宮地図>が反応したのだ。



普段グローブを着けている為分からなかった。

私が人前で素手を見せるのはダンジョンの中だけ。変な形の人間不信。

でもあのパーティに入ってから、正確には彼女と、ほんとに気まぐれで、私にしては珍しく握手を交わしたときから、少しだけ外交的になった。

だからきっかけは彼女と会った事と言っても過言では無い。


きっとこの力は私が初めから持ってたモノ。<迷宮地図>なんて御大層な名前のお陰で、ダンジョンの中でしか使えないと思ってたけど、そんな事は無かった。たまたまダンジョンが「迷宮」に当てはまる条件と一致しただけの事。


―――――――









「[クインテットブラスト]!!!!」


扉を開け放つと同時に、ソルトンが5本線のレーザーを放つ。

それらは全て、ボスの存在で歪んだ独特なエントロピーの隙間を縫う軌道を描き、威力を維持したまま<迷宮地図>から得た罠の位置全てに的中した。運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、仕掛けられていた爆弾と地雷が誘爆する。



魔力指向誘導弾。要はホーミングレーザーだ。

その扱いは非常に難しく、常人では狙った所に当てるだけでも相当な訓練を要求される。ましてや2本以上を同時に操作するとなると、卓越した空間把握能力と微細な魔力操作を要求される。しかし扱いこなすことさえできれば多岐に渡る攻撃が可能になり、戦術の幅が大きく増える。玄人向けの魔法と言えよう。


しかし流石はソルトン。彼の得意魔法は身体強化だが、単純に血液循環と保存エネルギーを魔力で強化するだけでなく、動作に合わせて適切なルートをその都度開放し、一切の魔力の無駄をなくしている。

微細な魔力操作、そして人体構造に合わせた3次元計算は、Sランク冒険者でさえ彼に遠く及ばない。



戦闘準備(セットアップ)!!!」


予定通り、<鉄壁(ガーディアンズ)>持ちの古参メンバーことクリネアとシンが前衛を務め、その後ろにソルトンが魔法で支援、私が巻き添えを受けないよう立ち回り援護。前衛2後衛1支援1の理想的な編成だ。


「グルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


宝を奪わんとする不届き者を確認した竜は、雄叫びを揚げ、腹の中から膨大な魔力を今にも吐き出さんとしている。




「…!! 開幕デカいの来るぜェ!!!! ソルトンッ!!!!」


「分かってますよ!!! [デュアルブラスト]!!!!!」



本数を犠牲に威力と速度を上昇させたレーザーが、竜の眼を狙う。

感覚器官は受容器が多く、どの生物においても弱点に成り得る。それは竜とて例外では無い。クリーンヒットすれば竜の吐息を撃っている場合ではないだろう。



しかし、着弾の直前に、竜がカッと目を見開く。それと同時に衝撃波が発生し、レーザーが掻き消されてしまう。

噂に聞く対魔力…保有魔力量から一定以下の割合の魔力攻撃を無効化する、[ディスペル]系の魔法がパッシブになったような奴だ。特に竜種程の魔力量ともなれば、魔導国レベルの魔法使いでなければほぼ単独で魔法を当てるのは不可能になる。



「チッ!! [マナシャット]!!!」



即座に魔力防護壁を展開し、炎のブレスから前衛を守る。

直後、竜の喉元で膨れ上がっていた魔力の塊が、膨大な熱エネルギーと化して噴出される。



「<鉄壁>!!!」



シンとソルトンを庇うように、クリネアがタワーシールドを構える。

スキルを使用すると、タワーシールドに触れようとした炎の一部が翻り、全体的として盾の部分で二又に別れて流れていった。



<鉄壁>、それは身にかかるあらゆる物理・魔法攻撃を軽減させる。……と、司祭は言っていたが、<迷宮地図>同様それは使い方の一つでしかない。


その本質は、一定以下のあらゆるエネルギーの反射。

正確には物体を剛体(重心のみに作用点が存在する)ではなく、流体(到る所に作用点が存在し、その合力を全体的なベクトルとする)として捉えている為、効果範囲に入った箇所からネルギーが反射され、内部でエネルギーが衝突する。その結果、身にかかるエネルギーが軽減される。


ゲイザー村の新人狩りに居た<鉄壁>持ちは、この特性を利用して反作用さえ反射し、着地点に伝わるエネルギーを100%伝える事で結果的に反動を抑え、超高圧攻撃を可能とした。



不届き者が未だ灰にならない事を知った竜は、その巨体を回転させた。

背後の宝物を自ら蹴散らしながら、巨大なムチと化した尻尾が凄まじい威力を伴って3人に襲いかかる。竜の背後には財宝の山が積み上がっている為、大きく動くことはまず無いと確信していた裏を突かれ、回避が僅かに遅れた。



「触れるなよ!!! 持ってかれるぞ!!!!」

「おいおいおいおいおい!!!! 番人が宝モンぶっ壊すんじゃねぇ!!!!」



シンは<見切り>でギリギリ回避しながら斬撃、ソルトンは範囲外に回避。

しかし、防御が前提の重装を着けたクリネアはその僅かの差で回避できずにまともに喰らってしまう。


「ぬううううううううううううううううううううん!!!!!!!!!!!!」


「クリネアッ!!!!」




100kgはゆうに超える重装兵が、いとも容易く壁まで吹っ飛ばされる。中途半端に回避しようとしたせいで防御もままならず、直撃を受けてしまった。


「ゲホッ………死んじゃいねぇ、だがしばらく動けん……」


<鉄壁>を咄嗟に発動したことで尻尾のダメージは軽減できたが、壁に衝突する際は内部破裂を避けるためスキルが使えず、モロにブチ当たったダメージを受けてしまう。


クリネアはこれで脱落だ。



よそ見をする間もなく、鋭い鉤爪が幾度と振り降ろされる。

爪はAランクダンジョンの壁や床をバターのように斬り裂いていく。まともにピッケルで壊そうとすると、壁1枚でも丸一日以上かかる程堅牢な壁をだ。

これも受け止めるだけ無駄だ。遺物クラスを以てしても損傷は免れないだろう。

おまけに竜種の鱗は魔力量に応じて指数関数的に強固になっていく。コイツのレベルになると、首都に構える指折りの工房の武器でさえ殆ど刃が通らない。今でさえ血が出たら御の字だ。

まさに攻守ともに完璧な魔物と言えよう。



しかし流石はシン、<見切り>で強化された圧倒的な反射神経は、振り降ろされた直後の一瞬を狙い斬撃し、少しずつだがダメージを与えている。

竜は大柄な分、一撃一撃の威力は凄まじいが、その分隙も大きい。


こちらが与えるダメージは微々たるものでも、同じ個所を何度も攻撃すれば自然と傷は広がっていく。

そうしてダメージが大きくなればなるほど相手は焦り、更に攻撃がより雑になっていく。




斬撃を十分入れた所で、竜がしびれを切らして手を思いっきり振り上げる。その爪先には魔力がこもり、渦巻いている。こちらのカウンターを嫌って、爪が叩き突くと同時に爆発が起こるよう工夫してきた。


だが、溜めが多ければ多いほど、コースの予測、余波の範囲、エネルギーの流れが読める。


「ソルトンッ!! 合図と同時に俺の足元を爆破しろ!!!」


「了解です!!!」 


離れた位置から地面を通して、居合の体勢に入ったシンの足元に魔法陣を刻む。


そして爪を振り降ろさんと肩が動いた瞬間、シンが真上に叫ぶと同時に真上に跳躍する。



「今だッ!!!!!!!」


「[ポイント・エクスプロード]!!!」


シンの跳躍方向に合わせて、指向性爆弾を爆発させる。それ自体は空振りだが、エネルギーは余波としてシンを更に上空へ吹き飛ばす。


彼の眼前には振り降ろされた爪。



その瞬間、シンの集中は最高潮に達し、周囲の魔力と同調する。


「黄」戦で咄嗟に行った空間為替(タイムレート)半歩ずらし(メトロノーム)の合わせ技により、爪が纏う魔力の渦を掻き消す。

そして跳躍+ポイント・エクスプロードの余波+降ろされる鉤爪の速度が合わさり、シンと爪の相対速度は音速の領域に突入していた。





すれ違う爪とシン。

直後、爪が付け根から真っ二つに切断される。





<見切り>による圧倒的反射能力、そして彼が培ってきた技術と経験、そして超高速領域に突入した相対速度による「重さ」を合わせた、瞬間的超々高圧斬撃。


『死の目』、これがその本領である。



「よし、このまま!!!!」




壁を蹴り、エネルギーを維持したままパニックに陥る竜の喉元目掛けて突っ込む。

斬り裂かれた指先からは血がとめどなく溢れ出ており、竜は明らかに困惑の色を示している。今なら反撃に移る前に、もう一度「死の目」を叩きこめる。


刀を鞘に納め、再び空中で居合の構えを取る。





しかし、それは焦燥だった。


痛みと焦りと困惑と怒り、その感情を爆発させた竜は、宝など知った事ではないと言わんばかりに、全開の威力の「竜の吐息」を。

喉元が膨れ上がり、準備段階でなお漏れ出る程の凄まじい熱量が、今まさに解き放たれようとしていた。

あと1話だけ続いたら視点が現在に戻ります

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