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60話 怪物の実力 その3

―――――――――――

「(一つ一つが生命体、つまり一欠片でも残っていれば魔力がある限り無限に増殖し続ける……私は術式関係に疎いが、確かに会長ならば一目でプロセスを把握できる程至極単純な代物か。通りで「足止め」と仰ったわけだ。)」



一体一体は群れをなす為の繁殖に特化し、ある特定のラインまで群体が増殖すると知性を持つ。

半知的生命体、いや、寧ろ一つの種の進化を見ているようだ。



倒れている赤髪の少女の頭を掴み、黒い噴水に放り投げる。

思い出の詰まった宝物と言わんばかりに拡散していた泥が集まり少女に覆いかぶさる。

やはり変貌する前の記憶辺りは残っているようだ。


そして泥は赤の少女を抱えながら再び首なし騎士を模る。

攻撃方法も元に戻り、魔力の剣の精製・発射を繰り返すようになった。

剣の方は問題は無いが、黒い汚泥は相変わらず触れた箇所が一瞬で蒸発するようだ。面倒極まりない。




「(であればこちらに注意を向けさせれば問題は無い。)


…………あとはコソコソしている人間の始末だな。」




だが、彼女の意識は既に外へ移っていた。何しろ素の状態では張り合い甲斐がなく、攻撃頻度・速度も意識せずとも軽くあしらえる程度。いざ本気を出させてみても倒せない、ただ面倒くさいだけ。面白味が無い。




飛来する剣を弾きながら、周囲の気配を探る。

東から二人、南から一人、南西から一人、敵意を持ってこちらに近づいている。


「(最も近いのは南西の奴か………丁度発射のタイミングで会長と接敵する。魔力量的にもまずはコイツからだな。)」



攻撃頻度や汚泥の侵蝕速度から、もう彼女が持ち場を離れても問題なく術式は完成する。

であればどこから嗅ぎつけたかは知らないが、乱入して来る野次馬を叩きのめせばいい。


速度的に南西の敵以外は会長であれば十分対処可能だとは思うが、念には念を入れ。

そして穴だらけの校舎を飛び出し、南西へ向かう。






*





その瞬間だった。


世界が、()()()




「(っ座標転移かッ!!!)」


咄嗟に殺気を読み取り、背後から迫る物体を斬る。


だが、黄金に輝くそれは彼女の剣を以てしても斬ることは敵わなかった。

追撃を加えようとするが、恐らく先程と同様の仕組みで相手自身が後方へ転移し躱された。



「(相手は二人、だとすれば、ここは3つの内一番遠いポイントか!

流石にマズいな、万が、いや億が一が在ってはいけない、まずはミリナ(清掃楽部委員長)に連絡を………  …!!)」




耳に手を当てた瞬間、金髪の転移の使い手とは別の、赤い髪の人間が、おもむろに魔法鞄を取り出し中身を放り投げた。

爆弾でも、魔導具でも無い、何ならそれは本来投げるために使用されるものでは無い。


カタナ、そう呼ばれる片刃剣が何十本と飛び出す。

それはまるでバトルフィールドを誂えるかのように円を描いて着地した。

それと同時に、刺さった内の一本を手にした赤い髪の人間の眼が変わる。


『急ぎのところ悪いな、少し相手をしてもらおうか。』



「……………………」




思わず立ち止まってしまう。

その眼差しに、その肉体に魅かれてしまった。

会長の邪魔をさせない事が現在の最優先事項であるにも関わらず、その女に目移りしてしまう、せざるを得なかった。



「(この殺気…この闘志……………紛れもなく人類の領域を超えている。これほどの逸材が人間界に存在していたとは………!!!

素晴らしい!!!実に素晴らしいぞ!!!!!)」



戦士としての血が疼く。

悪い癖は度々出ていたが、今この時をもって彼女はメイ・クラウンの部下から、闘いを求める一体の狂戦士と成り下がった。



「(あぁ……………欲しいなぁ、この人間。)」



笑みを浮かべながら、剣を取り出す。


――――――――――――



「(魔王の眷属…………まさか、あの戦争の生き残りか!!!!!!)」





まさに執念と言えよう。スキルを無しにしても色付きに匹敵する戦闘能力。40を越え、肉体の全盛期では無いにせよ未だ衰える気配を見せていない。

桁外れの魔力量を誇る彼女の片刃剣は、「金」の持つ遺物さえも凌駕しており、pMも明らかに高い事が目に見えて理解できる。クリスタルの意匠が施されたその剣が、二本。




怒りに身を任せながらも、その切っ先は速く、鋭く、殺すべき対象へ向けられていた。

一の剣を受け止めても二の剣、三の剣とどこまでも連撃が続いて行く。

その攻撃一つ一つが直前の動きをカバーしており、全く途切れない。




術式解放直前の処理能力がピークに達している状態では、流石の魔人と言えど捌ききることが出来ず、何発かまともに喰らってしまう。魔力の大半も魔法陣に注がれ、ロクに体皮の硬質化も出来ずに傷を付けられる。


術式は最後の座標設定の段階であり、ここで少しでもミスをするとここら一帯が完全に吹き飛んでしまう。学園や首都には対魔法の結界が張ってあるとはいえ、それはあくまで人間界の魔法を想定した物であり、魔戒術式には当然敵わない。


そしてそれは魔人である彼女達にも同じことで、上位魔人の本気の魔戒術式を受ければ、どれ程の耐久力を誇っていたとしても回帰は避けられない。


そもそもヴァースが外回りは担当しているはずだ。

いくらなんでも認識改変の術式が展開されている中で、そう都合よく彼女の興味を惹く人間が現れること自体がおかしい。



「(くっ………間違いない、コイツは明らかに我々の動きに慣れているっ。

まさかズルタスをやったのもコイツが…? いや、それはあり得ない。

この程度では我々が気付かない筈がない。

我々からしてみればズルタスは採るに足らない存在だが、それでも人間界の食物連鎖では十分頂点に君臨できる。)」



持ち前の洞察力も、思考領域の9割以上を占められていてはどうしようもない。寧ろ動けている時点で生命としての演算処理能力の頂点と言っても過言ではないだろう。



「(加えてヴァースが魅かれるような人間が、そうそう何人も現れるわけが無い。であれば、裏で手を引いている奴が居る。

だが…………… まずはコイツだッ!!!!!)」



刃先の予測軌道上の部位に、限られた魔力を全力で突っ込み硬化させる。

敢えて少し食い込ませることで次の攻撃まで一瞬の隙を生み出した。



『っ!!!』



向こうも予想外の攻撃に当惑する。当たり前だが、硬度を自在に変化させる生物は魔界だろうとそうそういない。そもそも魔人に至っては変化させる必要が無いからなのだが。



「(起動(セット))」


掛け声とともに靴底に仕込んでおいた小型の魔法陣を展開する。

『業』のような高威力高燃費の魔戒術式等で魔力が切れた時に、貯めておいた魔力で即席の魔法を使えるというものだ。認識改変の術式の時点で可能性を限りなく狭めたが、念には念を入れた妨害者対策が功を奏した。



現在付けているのは[ポイント・エクスプロード]。

爆発のエネルギーをピンポイントに定めることで、範囲を犠牲に威力を格段に上昇させる。勿論爆発をぶつけるのではなく、蹴りの威力を向上させるためのものだ。


対となるものとして、威力を犠牲に範囲を拡大させた[ワイド・エクスプロード]がある。




そのまま腹部を蹴れば、同時に仕込んだ魔法が発動し、蹴りの威力をブーストして内臓どころか上半身までも粉々に吹き飛ばせられる。

生まれた隙は1秒にも満たない時間だが、それで十分だった。




しかし、向こうは意外にも遺物クラスの武器を簡単に捨てた。

僅かに敵の体にめり込んだ武器から惜しげもなく手を離し、ギリギリで体をひねり蹴りを回避。

そのまま懐から取り出したナイフに持ち替え、攻撃する。


ナイフ1本とっても、中々の業物。

これ程の人間に何故気付かなかったのだろうか。



*



攻撃のタイミングを合わせ、ナイフを弾く。だがその直後に奴の手には別の武器が握られている。

次から次へと、処理が追いつかない速度で装備を取り出していく。


ナイフ、ハンマー、メイス、アックス、挙句の果てには魔法鞄でもあるのかカタナや巨大なランス、バスターソードまで取り出した。

いくら屋上はあまり広くはないとはいえ屋敷の大広間くらいはあると言うのに、それさえも奴が取り出した武器で溢れかえっている。


「(おいおいおい、これじゃぁまるで「収納」じゃないか。)」



軽口を叩いてはいるが、その実かなり追いつめられていた。

双剣を始めとした個人が持つにはあまりにも多彩すぎる武器に翻弄され、じわりじわりと体力を削られている。


体内を巡る魔力や術式の維持に使う魔力の摩耗を極力迄に減らし、少しずつ使える処理の容量を増やしてはいるが、それでもなお圧倒的な手数を巻き返すことができない。






「(術式さえ使えればッ…………一か八か、心臓部(コア)をやられる前にぶっ放せば……!!!!!!)」



既に向こうの体に多少なりともガタは来ている。だがそれが致命的となるまでにはあまりにも時間がかかりすぎる。

状況打破、打つ手なしの賭けに出た。




『死に晒せッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!』


防御を敢えて弾かせ、懐から取り出したランスにどてっ腹をぶち抜かせる。

確実に致命傷であることには間違いなく、末端部の維持できなくなった部分が魔力に変換され、術式に吸い取られて行っている。

だが、ギリギリ心臓部には達していない。



「(座標………………特定!!!!

終わりだッ!!! 駄犬も、貴様もッ!!!!!!)



第三十三号『業』 発ッ………………」








だが、言葉はそこで途切れた。


『どうも。お膳立てありがとう。』





突如として、視界がぐるりと回る。

一度も遭遇したことのない光景に理解するのに少々時間を要したが、自分の体を見てようやく理解した。


自身の首が飛んだのである。


「(馬鹿な!? いつの間に背後へ!!!??

ッ!! マズい!!! 術式がッ!!!!!!!)」



一瞬集中が乱れ、精巧に作られた術式に綻びが生じる。

確実に暴発し、ここら一帯が貯め込まれた魔力によって吹き飛ぶ。その瞬間、更にあり得ない現象が起こる。



『喰らえ。ロイガー。』



その言葉と同時に背後をとった存在――その男の影から一匹の蝙蝠が飛びだす。

たかが蝙蝠一匹、何ができるか。否、それは想像に難かった。



蝙蝠の腹から巨大な(あぎと)が飛び出し、宙に浮かぶ魔法陣を飲み込む。その瞬間、脳内で構築していた仮想術式の一切が消え、自身から術式に注いでいた魔力の全てを吸い取られた。



食べたのだ。魔法を。

魔力喰らい(マナイーター)の比では無い。あれは漂う魔力が形を持たない純粋なエネルギーだからこそそのまま取り込むことができる故に生まれた種だ。魔法やスキルという指向性を持った魔力は下手に取り込むと拒絶反応が起こり、最悪体内で暴発する可能性もある。


だが、奴は取り込むと同時に術式を破壊した。

発動の失敗は多々あるが、殆どの原因は詠唱中の攻撃等の何らかの方法で魔力の流れが阻害されることだ。当然術式はあくまで魔力に対する術者の「命令」が魔法文字となったモノであり、魔力が無ければそれ自体が何ら影響することは無い。

「現実改変をもたらす計算式」、それこそが魔法、魔戒術式、天獄術式の本質である。


術式そのものを喰らうという事は、乃ち世界のルールに等しい強制力――



「(まさか、いやそれよりも奴はあの時―――――


思考が及ぶ前に、赤髪の女に頭部を含めた肉体全てを粉微塵にされ、メイ・クラウンは魔界に回帰した。

サブタイ「怪物の実力」ですが、人間視点での怪物が多すぎるので誰を指して言っているのかはご想像にお任せします。まぁサブタイなので、キーとなる場面がある回以外は基本フィーリングで付けてます。/が無い時は特に深い意味はありません。


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