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06 エンティティ

掟…母の言いつけか、父の遺言か。


天秤は定まるのに少々時間を掛けたが、父がナルダの森について知らないはずも無い。その上で私にこの石を託したのなら、そういうことなのだろう。


意を決してしめ縄が巻かれた木の間を抜ける。


しめ縄が目印と言っていたが、初めから塞いでおけばいいじゃないかと母親に質問したところ、




『あそこはナルダ様の御膝下への入口であると同時に、ナルダ様が森の外へ出る為の玄関でもあるのよ』




とのことらしい。

だがナルダ様の実物を見たことが無い以上、よくわからない事には変わらないのだが。



一歩足を踏み入れた途端、急な悪寒を感じた。


まるで周囲の熱を根こそぎ奪われたかのような寒気。


それと同時に立ち込める霧。それも濃霧。

辛うじて周囲1m程度は把握できるが、それ以上は全く見えない。




手探りで進むのは怖いが、怖気づくわけにもいかない。


少し歩いてみると、更に奇妙な事に気が付く。




「え…… 戻れって言うの…?」



先程まで真正面を指していたはずの石の光が、次の瞬間真逆の方向を指し示しているのだ。


概念魔法………に近いのだろうか、<共感>も発動しない。


一瞬壊れたかと思ったが、少し進むとまた真逆の方向を指した。



なるほどこれは迷うはずだ。

つまりあの迷宮のように、進むべき方角が次々と入れ替わっているということだろう。






しばらく光に従って歩くと、突如として声が聞こえた。

それはどこか子供のような純粋さを孕んでおきながら、人間の醜さを秘めたような声だった。



『こっちにおいで。』『おいでおいで。』



ふと聞こえた方向へ進もうとするが、立ち止まる。

石の指している方向とは違うのだ。


前例がない為何とも言えないが、流石は御膝下。一筋縄ではいかないということだろう。















10分くらい経っただろうか。

相変わらず光は右往左往を続けており、何度も方向転換を繰り返していた。


いつまで霧が続くのか不安になってきた頃、ある変化が訪れていた。




それは先程の声だ。




声は進む度にどんどん野太くなっていっている。

初めは子供の声だったはずが、既に中年男性くらいにまでドスを利かせていた。


おまけに幼稚さは見る影も無く、



『早く来いったら』『言う事聞けよ』



と攻撃的な言葉になっている。

耳を塞いでしまいたいが、右手が石で塞がっている以上それも出来ない。


脅されているかのような緊迫感の中、私は歩き続けるしかなかった。








―――――――――――――――――――――

それから20分くらいだろうか、それとも1時間は経っただろうか。

風景が一辺倒であるため時間の感覚まで狂ってきた。


鳴り響く声は最早人間の声帯では表せないレベルまで来ており、辛うじて聞き取れるくらいだ。



正直言って逃げ出したい。素直にレシェル村に残って初心者の冒険者達と一緒にクエストでも受けてればよかった。

今なら冷ややかな目で見られて罵詈雑言を浴びせられても構わない。


それ程までにこの霧は私の心を蝕んでいる。


いつも<共感>で聞こえていた木や土の声が聞こえないのも、精神をすり減らす速度に拍車をかけていた。




「いやだ………かえりたい………」



パーティーも無く、家も失い、帰る場所などとうに無いというのに。

自分を受け入れてくれるありもしない場所を想像してしまう。



本当にこの道で合っているのだろうか。

父さんは間違っていたのではないか。

私はもう生きて帰れないのではないか。



弱音とともに浮かんできたのは疑念。


何一つ疑いもせず森へ向かった私の落ち度でもあるが、父さんは何故私にここへ向かわせたのだろう。




『 サ ッ サ ト コ イ 』『 ハ ヤ ク シ ロ 』



またあの声が聞こえる。

私から理性を奪っていく声。


一体どこへ来いって言うんだ。


私はどうすればいい。




どうすれば………………











































止まる足、構わず響くケダモノの声。


目を閉じ、耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込む。


他に聞こえる音はなく、私の心は限界を迎えていた。


当然だ。何しろ今までずっと誰かの後ろに隠れていたから。






ダンジョン攻略だって、シンやソルトン、他のメンバーに守ってもらってばかりだった。



村の中でさえ、父さんや母さんの陰に隠れて生きてきた。



私の行動は、常に私のため。



己の身を守るためにその手を汚しても、他人の為に汚すことは無かった。




「無能」。



今まで何百回と言われ続けた言葉。



もしかしたら、本当に私は無能だったのかもしれない。



私の存在意義を証明してくれた父さんと母さんはもういない。



私が生きる意味なんて、もうどこにもない。



ならいっそ、誰の目にも写らないこの場所で―――――――

























『そう、それがお前に相応しい。』



「……!!」


いつの間にか、私に背を合わせるように、それは居た。

跳びあがり、塞いでいた手を剣の柄にあてる。


そしてそれを視た私は、それ以上動けなかった。




背後にいたそれは―――――――――――――

                           私だった。

読んで下さりありがとうございます。

ご意見、ご感想お待ちしております。ちょっとしたここすきポイントや、質問などでも構いません。お気軽にどうぞ。


中々タイトル回収が遅いですが、次々回くらいからシンクロしますのでお待ちください。

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