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58話 怪物の実力

「……ルベルグ、念のために聞いておくが、好きに暴れて良いんだな?」


『ええ、「認識」のズレは効果時間を犠牲に人間では解除不可能になるまで強化させました。目の前で家族や愛人を殺されたり寝取られたりしても、今日だけは笑って過ごせますよ。』


「相変わらず例えの趣味が悪いなお前は。 …まぁいい、とりわけ私は戦い以外は疎いからな。助かる。


………さて、始めるか。」



耳元から手を離し、念話を終了する。

どうやら後始末は気にせず暴れて良いらしい。久々に体のコリを解せそうだ。

制服をまくり、二の腕にいつも気付かれないよう嵌めている金属の輪を外す。それと同時に全身から魔力と気力がみなぎり、溢れ出て来る。

それは人間に擬態する為に作った魔力抑制装置であり、常に過剰なまでの魔力を保有する彼女にとって学園で生活する為の必需品であった。


校則でアクセサリーの類は事故や事件が起こらないよう装着を禁止されているが、こともあろうに校則を一番遵守しなければならない風紀部委員長が日頃から違反していたとは。

しかし、今日限りは、厳格な肩書の荷を下ろす。




こちらが戦闘態勢に入った事に向こうも気付き、赤髪の少女を別の腕で抱きながら盾を構える。その盾からは何重もの魔力の障壁が展開されている。足元の黒い塊が勝手に広がり攻撃してくれる為、自ら攻撃の体勢を取る必要が無いのだろう。若しくは、先程の大剣のように攻撃の準備をしているのかもしれない。

さながら姫を守るための騎士、と言った所か。


だが、耐久戦に持ち込むという考え自体が浅はかなのだ。






「ふっ。」


軽く息を吐き、前へ飛び出す。






瞬間、爆音が轟く。






先程まで足を付けていた床が一瞬にして半球上に凹み、破片が飛び散る。

あまりの速度は音すらも置き去りにし、衝撃波さえ彼女の後を追う程だった。


すれ違いざまに剣を振り降ろす。

何重もの魔力障壁が一瞬にして斬り裂かれ、その腕ごと切断する。そして黒い塊の攻撃が一拍遅れて飛び出てくる。




【…………】



斬られた腕からは真っ赤な液体が噴き出し、周囲を赤一色に染め上げる。

すぐさま両方の切断面から黒い塊が顔を出し、結合する。



「耐久性に難ありだが、再生力は十分と。」



先程までのように無秩序に広がっていった黒い塊が、明らかにこちらに向かって増殖し始める。


「手癖も悪い。」




壁を、床を、天井を、縦横無尽に駆け巡る。

彼女が通った場所は全て例外なくその衝撃に耐えきれず原型をとどめておらず、10秒と経たずしてその廊下は既にボロボロになっていた。


そして跳んだ回数の2倍以上の斬撃が首なし騎士を襲う。

実時間に換算すると3秒にも満たない僅かな間に、既に20以上斬られている。一撃一撃が必殺の威力を誇り、それが20発も襲いかかる。間違いなく粉微塵になるのがセオリーだった。



しかし以外にも首なし騎士は耐える。

切り傷は深いが、いずれの傷も次の跳躍に移る間に修復している。斬る度に赤い液体が飛び散り、流石に真っ白な制服も赤色に染まってしまった。



だが、高い再生能力は逆に言えばまだまだ力を出しても良いと言う事でもある。




音速で回転し飛来するフルーレを躱し、弾き、本体に攻撃を加え続ける。

回数を重ねるごとに少しずつ斬撃の威力は増していき、それと同時に速度もまだまだ青天井に上がり続ける。





「はははっ、いいぞいいぞ!!! もっと私を昂らせろ!!!」





最初の時点でまず肉眼ではとらえきれない速度であったが、やがて気圧圧縮で発火しそうなレベルにまで加速し、一度跳躍する度に廊下だけにとどまらず学園全体、いや、学園区域全体が揺れた。


そしてあまりの威力に、いくら保護魔法が掛けてあるとはいえ剣を振るう予備動作だけで建物が軽く崩壊しそうだが、その実剣戟のエネルギーはすべからく目標に達していた。

すれ違う一瞬、その一瞬に剣を必要最小限の動作に最大限の力を込めて振う事で、机上の計算通りのエネルギーを全て伝えることが出来る。


当然<共感>が主導権を握っていた全力のカーリーやアクロモス等のオーガ並の身体能力を持っている人間、ないしは中位魔人でさえも、同じことをしようとするとその反動に耐えきれず、腕が折れたり千切れたり拉げたりするだろう。

こと戦闘のみに全能力を注ぎ込んだヴァースだからこその芸当であり、更にはこれが彼女にとってのデフォルトでもある。今まで圧倒的強者という扱いで紹介してきた生徒会長さえ、魔戒術式無しでは彼女に敵わない理由がよくわかる。





少しずつ修復速度が損壊速度に追いつけなくなり、首なし騎士の攻撃のキレが鈍くなる。回転するフルーレや、上空から飛来する剣の数も頻度も目に見えて下がり、やがて修復に手一杯になってしまう。




一度受けに回っていまったら、後は一方的な戦いだった。

彼女の一撃一撃が首なし騎士の体を抉り斬り、剣で、拳で、ぶち抜いて行く。

戦闘開始から1分、首なし騎士は最早原型をとどめられない程にボロボロになってしまった。




「…いいやまだだ、まだお前は力を引き出せるはずだ。」




何と言う暴力的な欲求不満だろうか。

悪い癖だが、相手を煽り出し惜しみをさせなくさせるのは彼女の闘争欲求の性なのだ。


そして、既にその方法は知っている。

首なし騎士は、自身の修復よりも優先して赤髪の少女の防御に黒い塊を割いて防いでいるという事だ。自分から殺そうとしておいて、いざ虫の息になったらお姫様のように丁重に扱うとは、何とも虫のいい話だろうか。


だが、それ程までに大事なのならば、奪ってしまえば全力を以て取り返しに来るだろう。



「…なるほど、それがお前のリミッターか。」




球状の黒い塊、乃ち姫の揺り籠の前に立ち、軽く拳を流す。

弾き飛ばされた黒い塊が弱々しく少女の盾になろうとするが、あまりにも無力だった。



「これで少しはマシになるか? ん?」



少女の襟元を掴み、その喉元に剣先を押し当てる。

明らかな挑発行為であり、無駄な行為でもある。

生徒会長から与えられた任は「足止め」であり、それは注意を会長から遠ざけると同時に、攻撃の手を封じる、つまり屋上にて発動さえしてしまえば100%確定事項で首なし騎士を葬れる魔戒術式を詠唱している会長の邪魔をさせないという意味でもある。わざわざ相手の力を引き出させる必要も無く、寧ろ全力を出される前にケリを付けろという事を示唆している。


久々の力の解放で「上司からの任務」という、魔人の上下関係においての下の者にとっての最優先事項はとっくに忘れ、状況を楽しんでいた。




そして、相手の力の限界が未知数である以上、それは非常に悪手であった。



【-----------------------------------------!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!】








その光景を目にした首なし騎士が、口も無いのに咆哮する。

それは怒りの雄叫びであり、普段ならばヴァースはここでしたり顔をしていただろう。もっと自分の力を出させてくれる、フラストレーションを晴らさせてくれる、そう思っていただろう。




だが、違った。




「…………………っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




『ヴァース!! 何をしている!!!!! 足止めだけをしろッ!!!!!』







その雄叫びは、確実にそこにいる全ての人ならざるモノの神経を震わせた。

人間界のありとあらゆる生命を凌駕したと言っても過言では無い上位魔人達が、恐れおののいたのだ。

その影響は屋上で術式の組み立てを続けている生徒会長の元へも届き、常に冷静であった彼女を、アクロモスという人類最強の戦士との邂逅から実に十数年ぶりに、焦りという感情を沸き立たせた。



魔人ですら恐れる、いや、寧ろ魔人だからこそ恐れたのかもしれない。













さて、ここでロットのスキルについて説明しておこう。

フリスト戦でのビスタの感想で、彼女は素早さを売りにする戦法だと言っており、またごろつきとの戦闘でも瞬撃で相手の弱点を突くと言った威力よりも速度を優先した、いわば<見切り>や<瞬足>のような補助系のスキルだと思われるかもしれない。


しかしスキルと言うものは天性の才能という考察が為されているが、幼齢期、つまり人格が形成される時期の影響を大きく受けるという報告がある。例えば、肉体に恵まれていたとしても、この時期に魔導国の戦争に巻き込まれ、高濃度の環境で生存していた子供は、魔法系のスキルを得ることになる。逆に魔法の才に恵まれていたとしても、剣術に打ち込み続けた場合は近接系のスキルを得てしまう。


幼齢期、乃ち4~7歳、では彼女はこの時期何があったか?


そう、「吸血鬼」という不死の存在に両親を奪われた。メイ・クラウンの戯れにより文字通り運良く生き残った彼女は、彼女から得た情報により不死殺しの力を求め、今日のついさっきのタイミングを待ち続けた。

幼き少女が、それほどまでの決意を抱いたのだ。当然スキルに影響が出ないわけが無い。


そして本題だ。彼女のスキルは何だったのか。

スキルは多種多様であり、その殆どは魔法含め人類の手で再現可能なものだ。ある種の才能と言っても過言では無いはずだ。(<共感>は例外中の例外)

不死殺しはまさにその対象外であり、不死を不死足らしめる概念を覆すことは、魔法でも一部を除いた神獣の手でさえもまだ不可能だ。



だが、(ネームタグ)、つまり存在証明という弱点を利用すれば、肉体ではなく魂のみを縛り付けてしまえば、生きることも死ぬことも出来なくさせることができる。

それは古来に禁忌に指定された蘇生の魔法と同じであり、存在証明の操作でもある。つまり、神獣の領域、世界のルールの改変。


自らの寿命と、存在証明に引き摺られた因果と、歴史。つまり人間を構成する要素であり、彼女が存在したという事実そのものを犠牲にして、全てを現実改変としてのリソースである魔力に変換し、スキルという指向性によって、対象の存在証明の希釈という現実へと変える。



それが彼女のスキル、<逆説証明(パラドックス)>である。

あけましておめでとうございます。

今年も何卒、私こと静謐の楽団をよろしくお願いいたします。

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